賃上げ率9.5%の会社も!中小企業の課題を解決する「人事制度」とは?
「給料がなかなか上がらない」「今の会社で将来を描けるのか不安……」物価高騰が続く今、多くの若手ビジネスパーソンが抱える切実な悩みです。特に中小企業で働く人にとって、「大企業は大幅な賃上げをしているのに、うちはどうして?」という疑問は、時にモチベーションを大きく左右する死活問題でしょう。

2026年2月、日本人事経営研究室が開催したラウンドテーブルでは、中小企業の賃上げを阻む「壁」の正体と、それを打ち破るための画期的な解決策が示されました。本記事では、同社の山元浩二代表や、実際に制度を導入して劇的な変化を遂げた経営者の声を交え、中小企業における人事評価制度の重要性を紹介します。
目次
中小企業を苦しめる「生産性」と「属人化」の罠
なぜ中小企業の賃上げは進まないのか。山元氏は、大企業と中小企業の間にある圧倒的な「生産性の差」を指摘します。財務省「法人企業統計調査年表」のデータによれば、大企業の労働生産性が年間1,589万円であるのに対し、小規模企業は503万円と、約3分の1に留まっています。
この生産性の低さを生んでいる要因は、主に以下の3点に集約されます。
1.仕事の属人化(現場のブラックボックス化)
「この仕事はあの人にしかわからない」という状態です。マニュアルや基準がないため、スキルの伝承が行われず、特定の社員が欠けると業務が回らなくなります。
2.経営計画の不在
社長の頭の中にだけビジョンがあり、社員には共有されていない状態。向かうべき方向がバラバラでは、組織としての力は発揮できません。
3.人事評価制度の形骸化(あるいは不在)
社長の主観で給料が決まる、あるいは制度はあるがフィードバックがない。これでは、社員は何を頑張れば昇給するのかが見えず、意欲が削がれてしまいます。
特に100人未満の企業における賃上げ率は、大企業の勢いに比べ非常に低い水準にあります。このままでは人材が条件の良い大企業へと流出し、人手不足倒産という最悪のシナリオも現実味を帯びてきます。
「ビジョン実現型」が組織の血流を変える
この負の連鎖を断ち切る武器として紹介されたのが、「ビジョン実現型人事評価制度®」です。これは単に「誰の賃金をいくら上げるか」を決めるための定規ではありません。経営計画(ビジョン)と人事評価を完全に連動させる仕組みです。
この制度の最大の特徴は、会社が目指す10年後の姿から逆算して、各社員が「今、何をすべきか」を明確にすることにあります。
・役割の明確化
役割ごとに求められる基準(グレード)を言語化し、誰でも「何をクリアすれば昇格・昇給できるか」を可視化します。
・能動的な組織への変貌
評価基準が「会社のビジョン達成に貢献する行動」と紐付いているため、社員は自分の成長が会社の成長に直結していることを実感できます。

同社が2025年10月に実施したアンケートの結果では、人事評価制度がある企業の92%が賃上げを実施できているのに対し、ない企業では5割未満という顕著な差が出ています。また、業績が向上している企業の半数以上が、人事評価制度を運用していることも明らかになりました。
【実例1】若手が増え、戦略共有が文化になった「ナガセキトーヨー住器」

山梨県で建築資材販売などを行うナガセキトーヨー住器株式会社の永関英文社長は、導入前の自社を「個人商店の集まりだった」と振り返ります。営業力の高いベテランが個々に動く一方で、組織としてのまとまりや若手の育成に課題がありました。
2018年に制度を導入した結果、以下の変化が起こったといいます。
戦略の全社員共有
→毎月の決算や戦略の進捗を全員で追うようになり、組織としての「現場力」が向上。
若返りと文化の変革
→平均年齢が52歳から45歳へと若返り、ベテランも若手を育成する意識に変化。働きやすさが評価され、「YAMANASHIワーキングスタイルアワード」の受賞にもつながった。
賃上げの実現
→利益増と連動し、2024年には5%を超える賃上げを達成。
【実例2】賃上げ率9.5%!「働きがい」が数字を生んだ「たかはし葬儀社」

宮城県で葬祭業などを営む株式会社たかはし葬儀社の高橋健隆朗社長は、かつては社員の定着率の低さに悩んでいました。しかし、制度導入によって「社員が主役の組織づくり」へと舵を切ります。
成長の可視化
→20項目の評価基準とフィードバックにより、社員が「次はこれに挑戦したい」と能動的に動くようになった。
理念採用の成功
→会社のビジョンを明確に発信することで、共感する人材が集まり、深刻な人手不足が続く業界にあって社員数を着実に増やしている。
圧倒的な還元
→生産性の向上を給与だけでなく、休日の増加などプライベートの充実にも充て、結果として9.5%という驚異的な賃上げ率を実現。
人事評価制度こそ日本経済を底上げする鍵
山元氏は、人事評価制度の導入を検討すべきタイミングについて「社員数10人前後が検討すべき時期」であると指摘します。社長一人の目が行き届かなくなるこの規模こそが、仕組みへの転換期だというのです。
また、導入から本格的な賃上げ効果が出るまでには「通常2〜3年程度」の期間が必要となりますが 、経営計画の発表などは半年ほどで可能であり、早期に社員のモチベーションや業績に好影響を与えるケースも少なくないといいます。
日本の企業の99.7%は中小企業であり、労働人口の約7割がそこで働いています。つまり、中小企業の社員が豊かにならない限り、日本全体が真に豊かになることはないのです。
中小企業が生産性を向上させ、大企業に比肩する賃金を実現することは、日本経済の基盤強化につながります。社長が高いビジョンを掲げ、組織を牽引する決断を下すこと。そして、社員がそのビジョンに共感し、自らの成長を会社の成長に重ね合わせること。この「組織の好循環」を生み出す人事評価制度こそが、停滞する日本経済を底上げする鍵となるでしょう。
[bizSPA!編集部]