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USスチール買収で話題の「黄金株」とは?【やさしいニュースワード解説】

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USスチール買収で話題の「黄金株」とは?【やさしいニュースワード解説】

在京の大手メディアで取材記者歴30年、海外駐在経験もあるジャーナリストが時事ニュースをやさしく解説。今回は、「USスチール買収で話題の黄金株」です。

創業1901年の鉄鋼大手 USスチールを日本製鉄が買収

日本製鉄は、このほどアメリカの鉄鋼大手 USスチールの株式を100%取得して完全子会社にすると発表しました。

1901年創業で、120年以上にわたり自動車産業などを中心に鉄鋼製品を供給してきた伝統ある米国企業を日本製鉄が傘下に収めることをめぐっては、バイデン前大統領が安全保障上の理由で拒否し、2024年の大統領選挙でも政治問題化しました。

USスチールが米国政府に発行した「黄金株」とは

その後、ドナルド・トランプ氏が大統領に就任した後も消極的な態度を示していましたが、長い交渉の末、トランプ大統領の承認を経て、このほど完全子会社化を実現しました。

このとき注目されたのが「黄金株」です。黄金株とは、1株で取締役の選任や解任、株主総会決議などの重要事項に拒否権を行使することができる種類株式のひとつです。米国政府が日本製鉄のUSスチールの完全子会社化を認めるにあたって、両社が米国政府と国家安全保障協定を結ぶとともに、USスチールが米国政府に黄金株1株を発行することになりました。

これらにより米国政府は独立取締役1人の選任権を得るとともに、社名の変更や設備投資削減などを行う場合には、大統領またはその指名する者の同意を必要とするとしています。つまり米国政府がUSスチールの重要な経営判断に関与できる仕組みです。

米国政府の意向が経営に影響を及ぼす可能性も

一般的に黄金株の発行は企業の経営に大きな影響を与えます。日本では、外国企業による買収を防ぐため、資源開発大手インペックスの黄金株1株を経済産業大臣が保有している例があります。

日本製鉄のUSスチール買収をめぐっては、長く膠着状態が続いていた事態を打開するために、日本製鉄は日本政府も巻き込んだ交渉を通じて巨額の投資や雇用維持・創出を約束し、それを米国政府が直接監督できる黄金株を発行することで完全子会社化を実現したといえます。

日本製鉄の橋本英二会長兼CEOは、記者会見で「投資の実行を監督したいという米国政府の意向を受け入れることとし、これを黄金株という形でわかりやすく表すことを提案し、合意に至った」と述べました。

さらに「(米国政府が)慎重に監督し、とんでもないことについては拒否権を持つということは、ある種当たり前だと思う。経営の自由度は十分に確保されている」とも述べています。

一方で、経済の専門家からは、「黄金株の存在によって、米国政府の意向が経営に少なからず影響を及ぼす可能性がある」と懸念する声も上がっています。

今後は黄金株の存在によって拒否権が不合理な形で行使されたり、経営の自由度が阻害されたりすることがないよう、企業統治にあたっては一段と透明性を確保することが必要になるといえます。

在京の大手メディアで取材記者歴30年。海外駐在も経験。

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