温水洗浄便座は米国発!「ウォシュレット」は日本で生まれ世界へ拡大【実は日本が世界初】

身近な商品や道具が世界に先駆けて日本で誕生したという話を紹介する連載。今回は、温水洗浄便座(ウォシュレット)の意外な歴史について紹介します。
一般名称と誤解してしまうほど世の中に浸透

新聞・放送の世界では、専用の用語集をつくって、表現に注意したい言葉をまとめています。例えば、特定の商品名なのに、一般名詞のように使われている言葉も、そうした要注意リストに載っています。
〈セロテープ〉は商品名なので「セロハンテープ」と書く(伝える)とか、〈シーチキン〉は商品名なので「マグロ(カツオ)の缶詰」と表現するとかいった話です。
注意を要する特定商品名の中には〈ウォシュレット〉も含まれています。ウォシュレットは商品名なので「温水洗浄便座」と書かないと本当は間違いなのですね。
しかし、逆を言えば、一般名称と誤解してしまうほど、上述の商品群は世の中に浸透しているとも言えます。
ウォシュレットについても、TOTO社(本社:福岡県北九州市)の製品名という認識にとどまらず、この世の中に存在する、温水洗浄便座のすべてを指すような意味として認識されているのではないでしょうか。
温水洗浄便座の始まりはアメリカ
このウォシュレット(温水洗浄便座)の誕生にはもちろん、日本が大きく関与しています。しかし、より正確に言えば、アメリカで開発され、日本で改良されて、日本から世界に広まったという歴史があります。
TOTOのグローバルサイトには、ウォシュレット開発の歴史が詳しくつづられています。歴史の始まりについては1960年代、日本の商社の動きが発端となっているのだとか。
当時、日綿實業(現・双日)という日本の商社が、病院の患者や高齢者など、体に不都合がある人に向けてアメリカで販売されていたビデ機能付き便座〈Wash Air Seat〉(ウォッシュエアシート)に着目し、輸入・販売を決断したところから歴史が始まります。
その商社は、後の1967年(昭和42年)、製品の特許と独占販売権を取得し、国内製造をTOTO社に依頼します。
この経緯については、米国フロリダ州マイアミに拠点を置く独立系週刊誌兼ウェブメディア〈Miami New Times〉にも詳しいです。
当時、ヨーロッパと比較して、ビデの認知度と普及が遅れていたアメリカで、アーノルド・コーエンという人が、父親のお尻のトラブルを軽減させるために、さまざまな部品を寄せ集めて、オリジナルの便座を発明しました。
トイレットペーパーなしでお尻を乾かせる機能に加えて、女性用の洗浄、大腸洗浄を行うホースが取り付けられていたそうです。
この温水洗浄便座の始まりとなる商品を、開発者のアーノルド・コーエンさんが見本市に出品する中で、上述の日綿實業が目を付け、契約に乗り出すのですね。
1980年(昭和55年)にウォシュレットをリリース
ただ、Wash Air Seatには、多くの欠陥がありました。
例えば、水を温めるためのスイッチが手動式だったり、水温が一定でなかったり、温かい水を一定量使い切ると冷たい水になってしまったり、ノズルの噴射角度が正確ではないため狙った部位に温水が当たらなかったり、さまざまな問題が未解決の状態になっています。
さらに言えば、商品の耐久性そのものも低く、数カ月使用すると、温水噴射機能が動かなくなるといった問題もありました。それでいて、日本のマーケットでは値段が高すぎるので、TOTOのエンジニアを中心とした社員一丸の努力によって改良され、1980年(昭和55年)、ウォシュレットとしてあらためてリリースとなるのですね。
ただ、リリース後も問題は続きました。販売直後は、ポジティブに市場に受け入れられたものの、発売から数カ月後、温水が出なくなったというクレームが顧客から届き始めます。
そこで、当時の社長である山田勝次さん(在任:1979~1985年)は全商品を回収し、修繕ではなく交換するという英断を行いました。
さらに、テレビコマーシャルでの露出、ウォシュレットの体験機会の拡大、商業施設での展開、商品そのものの改良改善を行い、加速度的に評価と普及度を獲得していきます。
2022年(令和4年)に6,000万台を突破

TOTO社によると、1980年の初リリースから1,000万台を突破するまでに18年1カ月を要しています。しかし、1,000万台から2,000万台の突破はわずか6年11カ月で成し遂げているとか。
2,000万台から3,000万台を突破するまでには5年7カ月、4,000万台を突破するまでには4年6カ月、5,000万台を突破するまでには3年8カ月、2022年(令和4年)に6,000万台を突破するまでには3年5カ月と、右肩上がりで累計出荷台数を伸ばしているとわかります。
2021年(令和3年)の時点で一般世帯普及率は80.3%、オフィス、病院、学校などにも普及は進んでいて、18の国と地域(2022年時点)でも広がりを見せています。
アメリカで誕生した温水洗浄便座の原型を、日本の企業が磨き上げ、世界に通じる商品につくりかえて普及させたという話。
海外出張に出かけたときには、現地のホテルや商業施設にウォシュレットが導入されているかどうか、ひとつの楽しみとしてチェックしてみてもいいかもしれませんね。
[文/坂本正敬]
[参考]
※ TOTO’S DECLARATION OF INNOVATION: The Little-Known History of WASHLET® Bidet Seats’ Development – TOTO
※ Behind the Bidet – Miami New Times
※ 日綿實業・ニチメン – 双日歴史館
※ 1980年6月の販売開始から42年2ヵ月 ウォシュレット累計出荷台数6000万台突破 – TOTO