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【世界の働き方事情・アメリカ】94%の雇用主が行う「バックグラウンド・チェック」とは?

コラム

世界の働き方事情・アメリカ編1

海外在住ライターや海外で働いた経験を持つライターが、各国の仕事事情を紹介するシリーズ「世界の働き方事情」。

世界一の経済大国といわれるアメリカ。その中でも全米最大都市ニューヨークの職業事情については、あなたも興味があるのではないでしょうか。米ニューヨークで需要のある職業や求職者に人気のある職業とは。雇用主が求職者に対して行う「バックグラウンド・チェック」とは。米ニューヨークの職業事情を、現地在住ライターが紹介します。

観光都市ニューヨークで求められる職業

2024年7月18日 ニューヨークのオフィス・ワーカーたち ©️Sara Aoyama 

2024年7月18日 ニューヨークのオフィス・ワーカーたち ©️Sara Aoyama 

ニューヨーク州労働局のデータ(2024年6月)によると、ニューヨーク市で需要の高い職業は、「アミューズメントとレクリエーション(遊園地やイベントなど)のアテンダント」、「料理人、レストランスタッフ」、「ファストフード・スタッフ」、「フィットネス・トレーナーやエアロビクス・インストラクター」、「物流関係(在庫管理、発送)」、「登録看護師」など。

おのおの需要が高い理由は、下記によるものと思われます。

・アミューズメントとレクリエーション(遊園地やイベントなど)のアテンダント、料理人・レストランスタッフ、ファストフードスタッフ
→世界の観光都市として旅行客が多いことによる需要

・フィットネス・トレーナーやエアロビクス・インストラクター
→健康や容姿を気遣うニューヨーク住民のライフスタイルによる需要

・物流関係(在庫管理、発送)
→オンラインショッピングを好むニューヨーク住民

・登録看護師
→ニューヨーク住民の高齢化

職業の人気と収入の高さは比例する

ニューヨークにあるグーグル社のオフィス ©️Hideyuki Tatebayashi

ニューヨークにあるグーグル社のオフィス ©️Hideyuki Tatebayashi

ニューヨークにある日系リクルート会社アップ・リクルーターによると、求職者に人気がある業種は幅広く、金融、サービス、法務、IT、運輸・ロジスティクス、飲食など。現代生活で馴染み深い、データ分析、デジタルマーケティングなどを希望する学生は多く、IT全般は広く人気があるそうです。

人気の高さは収入の高さとも比例しており、経済メディア・ビジネスインサイダーの記事「アメリカで急成長している高収入の仕事ランキング」(2024年5月21日)のトップは「ソフトウェア開発者」で、年収中央値推計値13万2,270ドル(約2,050万円)だそうです。

米IT大手の大量解雇の背景にAI

人気のあるIT系は、安定性についてはどうなのでしょうか。

2023年1月に、米IT大手が一斉にレイオフを発表したのは記憶に新しいところです。

マイクロソフト社の最高責任者サティア・ナデラ氏が従業員1万人を解雇、グーグル社および親会社アルファベットの最高責任者スンダ・ピチャイ氏が従業員1万2,000人を解雇しました。アマゾンは過去最大の2万7,000人の解雇を実施、さらにヘルスケアやクラウドサービス部門でも人員削減が続いています。ITバブルとも噂され、ITの大企業だからといって、安定を望むことはできません。

さらにAI(人工知能)の台頭により、カウンセラーやカスタマーサービス、ライター、翻訳者、アナウンサーなどが職を取って代わられる“AI失業”が増加しています。

ただし、AIの文章や翻訳は意味が不完全だったり、質問者の意図を必ずしも理解できていない場合も多いです。音読み訓読みを取り違えていて、AIアナウンスだと気がついた場合もあります。

その精度を高めるために、人間のような柔軟性を持つAGI(汎用人工知能)の実現が目指されています。AGIが完成すれば、アメリカに限らず世界の職業事情はさらに大きく変わるものと思われます。

犯罪歴がチェックされる「バックグラウンド・チェック」

アメリカで企業が雇用を検討する際に、日本とは違うシステムがあるかもしれません。

米国最大の人事担当者のためのネットワーキングHR.comの調査によれば、94%の雇用主が雇用に際して「バックグラウンド・チェック(犯罪歴などの身元調査)」を行っているといいます。

「米国の3人に1人には前科がある」(米名門大学ハーバード大学の経営大学院「ハーバード・ビジネス・スクール」の機関誌「ハーバード・ビジネス・レビュー」2020年11月記事による)といわれる犯罪歴と、経歴詐称(学歴や職歴など)を確認するためだそうです。

犯罪率の高さには「やっぱり、アメリカは犯罪大国?」とビックリしますが、前科とは罰金や社会奉仕活動により罪が償える軽犯罪も含まれていますので、念のため。

前科のある求職者は定着率が高く離職率が低いので、犯罪歴と業務の性質をマッチングさせた上で雇用する企業も多く、アマゾン、ペプシ、コカコーラなど大企業も含まれます。

いつでも終了可能な「随意雇用」が多い

アメリカではフルタイム勤務であっても、終身雇用や退職金のシステムはありません。

多くの雇用契約が随意雇用であり、雇用主と従業員の双方が、理由や事前通知を示すことなくいつでも雇用関係を終了できます。つまり雇用主が従業員を解雇する場合のみならず、従業員が退職する場合も同様です。

ただし従業員が不当解雇と感じた場合、雇用主を訴訟することができます。雇用主は訴訟を避けるため、解雇理由を明確にし、書面にすることが多いようです。

CEO(最高責任者)や管理職、研究者・技術者など専門スキルがある人材を雇用する場合は、一般従業員とは異なる雇用契約を結ぶ場合が多く、給与は長期雇用を念頭におく年俸制が多いようです。

就業形態は企業の需要や特性により、直接雇用のフルタイム、パートタイムまたは派遣社員、フリーランスに委託するなど異なります。

ニューヨークでは給与の支給は月に2回以上

ニューヨーク州労働法では、給与の支給は肉体労働者(建設業者、大工、配管工、整備士、電気技師など)は毎週支払われ、事務職やその他の労働者は少なくとも月に2回支払われることが義務付けられています

ほとんどの企業は「ペイロール」という給与計算システムで、社会保障番号(SSN)を基に、給与計算、源泉徴収、支払いが行われます。従業員の希望により銀行振込か小切手などが選択可能で、現在は、ほとんど銀行振込のようです。

次回はニューヨーカーの通勤事情や残業、時給ついてお届けしますので、引き続きご愛読ください。

[参考]
Jobs in Demand Today | Department of Labor
Subject: Focusing on our short- and long-term opportunity:Microsoft Corporate Blogs 2023年1月18日 
A difficult decision to set us up for the future:Google company news 2023年1月20日
アメリカで急成長している高収入の仕事トップ20 [2024年版]:ビジネスインサイダー・ジャパン 2024年5月21日
米アマゾン、クラウドサービス部門AWSで数百人を削減:ブルームバーグ 2024年4月3日
ビジネス特集 「AIで仕事失いました」あなたの働き方が変わる?:NHK 2023年9月7日 
前科がある人にも「公平な採用機会」を与えるべきだ ハーバード・ビジネス・レビュー マギー・リー=ジョンソン 2020年11月18日
Background Screening: Trends in the U.S. and Abroad HR.com 2021年8月
Global Trends & Insights by Region Unmatched Global Capabilities
Honest Jobs (前歴のある求職者と雇用主をマッチングさせるジョブサイト)
いまさら聞けない! 従業員採用における4つの基本書類とチェック・ポイント|スミス・ガンブレル・ラッセル法律事務所(ニューヨーク市) 
Frequency of Pay | Depart: New York State

[記事協力]アップ・リクルーター(ニューヨーク市マンハッタン)

PHOTO:Hideyuki Tatebayashi & Sara Aoyama
*Do not use images without permission.

[文/青山沙羅]

はじめて訪れた瞬間から、NYに一目惚れ。恋い焦がれた末、幾年月を経て、ついには上陸。旅の重要ポイントは、その土地の安くて美味しいものを食すこと。特技は、早寝早起き早メシ。人生のモットーは、『やられたら、やり返せ』。プロ・フォトグラファーの夫とNY在住。

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