NY金融界出身の「ヤマトのり」4代目社長が、コロナという難局から学んだこと
先代からの教え“一代一起業の精神”
ニューヨーク本社で10年、東京駐在員事務所で5年と計15年間勤めたプライベートバンクを経て、2000年に父(澄雄氏、現ヤマト会長)から社長の座を譲り受ける。先代からの教えや印象に残っているエピソードについてうかがうと、「常に新しい時代を切り開き、世の中の変化に対応できるように“一代一起業の精神”を大切にしなさい」という言葉が胸に響いたという。
「過去のものは大切にしながらも、移り行く時代に変化を恐れず、常に先を見据えて新しい価値を創造する。この大切さは、社長に就任した当時から思っていたことでした。父からは『確固たる信念を持ち、しっかりと会社をリードしていけば、自ずと社員はついてくる』と教わりましたね。また、『社員を大切にしなさい』とも言われました。大企業のような大所帯ではないため、一人ひとりの名前と顔を覚えることは大事なことだと肝に銘じ、コロナ前までは積極的に誕生日会や歓迎会を開き、社員との交流を深めることに徹したんです」
実際、ヤマトの社長室のドアは、基本的にいつも開けっ放しになっており、社員が気兼ねなく入れるような雰囲気を醸成している。これも「社員を大切にする」という先代から引き継がれたことなのだろう。
リーマンショックで大きく変化した需要
そんななか、長谷川氏はアラビックヤマトやヤマト糊といったロングセラーに頼らず、粘着・接着の分野にこだわったアイデア商品を次々と世に出している。「大量生産、大量消費で乗り切れた時代もあったが、時代の変遷とともに、BtoB(企業)からBtoC(個人)のニーズを取り込む重要性が増してきた」と長谷川氏は言う。
「昔は幼稚園や学校、郵便局や役所といった官公庁、そしてオフィスなどのBtoB取引が多かったわけですが、少子高齢化やネット社会の台頭、リーマンショックに代表される経費削減の流れから潮目が変わり、個人の需要が顕在化したんです。オフィスでの例を挙げると、昔は企業で使う事務用品を用度課という部署が一括で管理していました。
社員一人ひとりに電卓やノート、鉛筆、テープ、のりなどを配布していた頃があったんです。弊社もアラビックヤマトを中心に多くの企業様からご用命をいただいていましたが、リーマンショック以降、文具の支給が減ってしまいました。その代わりに『自分で機能性やデザインに優れた事務用品を買いたい』というパーソナルな需要が増えたわけです」