クラファン大手「マクアケ」業績急降下でやばい。出資者の反感を買った製品も
クラウドファンディングプラットフォームを提供する上場企業「株式会社マクアケ」の業績に急ブレーキがかかりました。2022年9月期の売上予想を当初の62億円から24.2%減の47億円に修正したのです。
2013年8月のサービス開始から約9年、「Makuake(マクアケ)」は2万2000以上のプロジェクトを発信し、累計500億円もの資金を集めてきました。しかし、近年は中国のECサイトなどで販売されているものと酷似した製品が資金を集める、一部のユーザーから「ただの転売なのではないか?」と問題視されました。
マクアケは転売ともとれるプロジェクトは排除する方向に舵をとりつつも、後述する「クラウドファンディングという概念を捨てる」行為で、出資するユーザーの目をこの問題からそらそうとしているようにも見えます。財務諸表などから同社の今後を読み解いていきます。
もともとサイバーエージェントの事業だった
マクアケはサイバーエージェントの事業として始まった会社。2017年10月にサイバーエージェント・クラウドファンディングからマクアケへと社名変更し、2019年12月にマザーズ市場に上場しました。上場時は71.36%の株式をサイバーエージェントが保有しており、IPOはサイバーエージェントの出口戦略としての性格が強いものでした。
国内のクラウドファンディングは、マクアケと「CAMPFIRE(キャンプファイヤー)」(運営会社・株式会社CAMPFIRE)の2台巨頭がしのぎを削っていますが、CAMPFIREは赤字体質から脱却することができていません。
マクアケは2017年9月期から利益を出しており、上場前から成長期待が高い会社でした。公募価格1550円に対して74.8%高い初値2710円をつけています。サイバーエージェントの売出株数が多かったにもかかわらず、買い先行でのスタートを切ったことがマクアケの成長への期待の高さを物語っています。しかし、2022年3月9日の終値は1530円となり、ついに公募価格を下回りました。失望売りが続いているのは、急激な業績悪化にほかなりません。
過去最高流通総額から…
マクアケが致命的とも言えるのは、売上高の成長が止まってしまった点です。クラウドファンディングのプラットフォームを提供する会社は、「応援購入総額(GMV)」と呼ばれる「流通総額」がものを言います。
出資総額で集めた資金の手数料がマクアケの主な売上になるためです。プラットフォームの利用料金は出資総額の20%に設定されています。マクアケは2021年4-6月の流通総額が59億1700万円と四半期で過去最高を記録しましたが、そこから減少に転じています。
3億6000万円を調達した超音波食洗器は…
2021年12月にマクアケで公開され、3億6000万円を調達したのがBrand Design Plus社の超音波食洗器The Washer Pro。マイクロバブルの衝撃波で食器の汚れを落とすというもので、洗剤がいらない利便性の高い家電です。携帯性も高く、キャンプなど屋外で使える点も高評価を得ました。
マクアケではあたかもBrand Design Plusがゼロから製品化したように受け取れる表現をしていましたが、実際は中国企業が開発したものを日本向けに仕様変更したもの。いわゆるOEMでした。これが出資者の反感を買います(※Brand Design Plus社は、2022年2月2日にマクアケの「活動レポート」内で謝罪を行っている)。
クラウドファンディングの知名度を高めたプロジェクトに、片渕須直監督による『この世界の片隅に』(原作:こうの史代)の映画化がありました。2015年にマクアケで国内映画クラウドファンディング最高額の3900万円を調達し、上映にこぎつけたというもの。この作品は興行収入27億円を突破。2017年に「第40回日本アカデミー賞」最優秀アニメーション作品賞も受賞しています。
クラウドファンディングの一般認識は、サービスを世の中に出したいけれども、資金的な余裕がなく、寄付に近い形で資金を募るというものです。この商品に限らず、マクアケ上に類似のプロジェクトが多数立ち上がり、SNSなどでネガティブな書き込みが目立つようになりました。
すなわち、出資者は『この世界の片隅に』のような美談を求めますが、近年は安易なプロジェクトが目立つようになり、そのギャップが広がっていたのです。
クラウドファンディングからコンセプトを鞍替え
この問題を受け、マクアケは2022年3月に基本方針を発表。クラウドファンディングという名称を捨て、「アタラシイものや体験の応援購入サービス」というコンセプトに鞍替えしました。
『ITmedia ビジネスオンライン』の取材記事によると、2019年12月に自社サービスの「クラウドファンディング」の定義をし直したそうですが、2019年12月11日に公開している上場時の「成長可能性に関する資料」には、事業内容に「クラウドファンディングプラットフォームの運営」と明記されています。
すなわち、2022年3月の基本方針を発表するまでは、一般ユーザーの認識はマクアケがクラウドファンディングプラットフォームを提供するサービスだったと考えられます。
今後の掲載基準としては、以下の3つの要件を満たしていることを求めています。
・プロジェクトの要素に「アタラシイ」があること
・実行者にとって「挑戦」や「ストーリー」があること
・基本条件をクリアしていること
方針転換のポイントは、クラウドファンディングの基本通念である資金調達という要素を排除したことです。資金調達という側面がある以上、出資者は提供した資金の使途を気にします。しかし、応援購入サービスと定義づけることにより、サービスそのものに視点が集中するのです。
正念場を乗り切れるか
マクアケの新たな方針を要約すると、ECサイトに「アタラシイ」というコンセプトをのせたものです。マクアケは徹底的に転売を排除するのではなく、クラウドファンディングという概念を捨てる選択をしました。
プロジェクト実行者にとっては、Amazonや楽天とは別の流通チャネルができたことになります。
マクアケは流通総額に依存するビジネスモデルである以上、プロジェクト数が減少して過疎化するのは最も避けたい事態です。成長性を確保するという点においては、今回の決断は正当性があります。これを出資者となる一般ユーザーがどう評価するか。マクアケは正念場に立たされています。
<TEXT/中小企業コンサルタント フジモトヨシミチ>