職場の“方言ハラスメント”が起こるワケ。「なまりは失礼」なのか
この春からパワハラ防止法がすべての企業で施行され、ハラスメント意識は高まっている。一方で、悪気のない共通語の強制や訛りいじりが、ハラスメントになる恐れがあることをどれだけの人が知っているだろうか――。
政府も認知していない「パワハラ」
「すごい訛(なま)ってるね」「今の言葉、どういう意味?」
就職や転勤先の慣れない土地で、こんな指摘を受けたことはないだろうか。話のきっかけになるならまだしも、なかには共通語(標準語)を強いられる職場もある。「方言は個性だと思ってきたのですが、上司が代わって『方言を直すように』と指示されたんです」と、すっかり訛りがなくなった東北出身の商社営業の男性(43歳)は、若手時代をこう振り返る。
「『俺も昔、茨城弁で悩んだから』と親切心ゆえの助言で、アナウンススクールを勧められて共通語を練習しました。人前で話す自信はつきましたが、生まれを否定されたようでいい気はしませんでした」
関西弁を使い続ける人は珍しくないが、関西出身の女性(30歳)は新卒で東京の広告会社に入社した際に共通語に矯正したという。
「新人研修で『関西弁が出ているから、よくないと思う』と言われて……。理由は、関西弁はキツく聞こえてお客さまに失礼になる、みんな直していて新人なのがバレるからと。急に直せるものでもないし、話しにくくなりました。常に標準語を意識して、訛りの指摘がなくなるまで2年かかりましたよ」
度を越えた方言指導はパワハラになる例も
度を越えた方言指導は、パワハラになる例も起きている。2021年7月に三重県松阪市の職員が、部下にイントネーションが不正確だと何度も言い直しをさせるなどのパワハラがあったとして降格・停職1か月の処分を受けた。
あまり知られていないが、方言に関連して相手を不快にさせる行為は「ダイアレクト・ハラスメント(=ダイハラ)」というハラスメントに該当する。アメリカでは、合理的に必要な範囲を超えて訛りの矯正を執拗に求めることは、雇用差別法でハラスメントを含め禁止されている。
日本では厚生労働省のハラスメント例にもなく、認知度が低いのが現状だが、“方言ハラスメント”は、少なからず発生しているのだ。