核兵器がロシアの最終手段か。「ウクライナ侵攻」で考えられる2通りのシナリオ
早く諦めさせるには…
小泉:さらに、今回の経済制裁には個人に対する制裁が含まれているので、プーチンの側近たちの個人資産も凍結されたりしています。プーチン政権の中心人物たちが「プーチンを担ぎ続けると、自分たちの富が危ない」ということになってくれば、プーチン降ろしが始まる可能性もあります。戦死したロシアの軍人も遺体として故郷に帰ってきています。
この先、「自分の息子が戦争のせいで死んだ」という事実を目の当たりにすれば、国民の厭戦気分も強まるでしょう。つまり、早く諦めさせるには、「ウクライナが戦場で負けない期間を可能な限り引き伸ばさなくてはいけない」というのが私の考えです。そうするには、軍事援助や人道援助をしっかりやるということです。
――負けない期間を引き延ばして、経済制裁の効果を最大化するんですね。しかし引き延ばせば引き延ばすほど、被害が増えていくわけで……。心が張り裂けそうですね。
小泉:とはいっても、プーチンが国内で見放されたからといって、反省するような人物かというと、そんなことはないですよね。反発に対して倍返しで応えてきた人物なので、プーチン降ろしが始まったら、ロシア国内でも非道な大弾圧を始めるかもしませんから。
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日本に暮らす私たちにとっても対岸の火事ではなく、今後大きな影響が及ぶ可能性があるのが今回の戦争だ。「よくわからない」で済ませず、当事者意識を持って考える人が増える一助になることを願ってやまない。
<取材・文/Mr.tsubaking 編集/ヤナカリュウイチ(@ia_tqw)>
【小泉 悠】
1982年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。外務省専門分析員、未来工学研究所研究員、国立国会図書館非常勤調査員などを経て2019年から東京大学先端科学技術研究センター特任助教。ロシアの軍事研究が専門。2019年、『「帝国」ロシアの地政学「勢力圏」で読むユーラシア戦略』でサントリー学芸賞を受賞。著書に『プーチンの国家戦略』『軍事大国ロシア』、訳書にD.トレーニン『ロシア新戦略』など