異例の受賞を果たした大学生作家が語る、SFの魅力「人の心を強くしてくれる」
数年にわたる闘病の過去
実は、著者にはかつて自費出版した小説がある。竹取物語をベースにしたジュブナイルSF『BAMBOO GIRL』だ(のちに文芸社文庫NEOで文庫化)。その小説は浪人時代に急性リンパ性白血病を発症後、隔離病棟で執筆したものだった。
もしかしたらテレポートや移動への欲望は、数年にわたる闘病期に自身の内側で育んできたものなのではないか。
「意識していたつもりはないんですが、SFが好きな理由はそこにあるのかもしれませんね。SFって“ここではないどこか”を表現し続けてきたジャンルじゃないですか。今いる現実とは違う世界に連れていってくれるからこそ、強く惹かれたのかもしれません」
SFは自分がひどくちっぽけな存在に思える
実感しているSFの魅力は、さらにもうひとつ。
「SFは人類とか宇宙とか、バカでかいものと自分を接続する楽しさがあると思っています。そんなバカでかい存在と自分を接続すると、身近にあるうざいこととかうざい人とかが、急激に矮小なものに見えてくる。“しょせん人間の営みだからね”と、達観できる(笑)。
自分もひどくちっぽけな存在に思えてくるんですが、だからこそラクになれる部分もあると思うんですよね。SFは、人の心を強くしてくれると思うんです」
著者は別作品でもライト文芸の新人賞を受賞し、2022年2月末に刊行予定。そちらもSFテイストがかすかに入り込んでいるという。SFへの尽きぬ愛と信頼を携えた、超期待の新人の誕生だ。
<取材・文/吉田大助 撮影/山野一真>
【人間六度】
1995年生まれ。愛知県名古屋市出身、東京都在住。日本大学芸術学部文芸学科在籍。2021年『スター・シェイカー』でハヤカワSFコンテスト大賞受賞。同年10月、『きみは雪を見ることができない』で電撃小説大賞《メディアワークス文庫賞》を受賞
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