『シン・エヴァ』を見て、ファン歴25年の私が思うこと。庵野と富野両監督の共通点も/常見陽平
2021年3月3月8日公開から半年ほどで国内興行収入100億円を突破した人気シリーズの完結作『シン・エヴァンゲリオン劇場版』。お盆の8月13日からはAmazon Primeでの配信も開始され、映画館で見て以来、久びさに視聴した筆者も思わずツイッターで熱い感想をつぶやいてしまった。
25年以上にわたり作品を見続けた1人として、エヴァンゲリオンにはさまざまな思いも巡ってくる。「さようなら、全てのエヴァンゲリオン」というポスターに描かれていたキャッチコピーのとおり、その言葉は今も心に残っている。そして、何よりも言いたいのはシリーズを手掛けた庵野秀明監督へのねぎらい。若干のネタバレも含みつつ、筆者なりの作品へ対する見解を伝えていきたい。
庵野監督らしさが出ていたドキュメンタリー
完結作の劇場公開までに、我々ファンはどれほど待たされたのか。映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』には、前段にあたる『ヱヴァンゲリオン新劇場版』の3作がある。『:序』『:破』と来て『:Q』が公開されてから、『シン・エヴァ』までの期間はおよそ9年間。間違いなくファンの誰もが、心の中で「だいぶ時間がかかった」と感じていただろう。
素直に「庵野監督の手でよく終わらせてくれた」と思うのは、完結作の製作過程を追ったドキュメンタリー『さようなら全てのエヴァンゲリオン~庵野秀明の1214日~』(NHK)を見たからだ。現在はAmazon Primeでも視聴することができる。途中、うつ状態になったとも明かしていたが、番組を通して、庵野監督がとにかく「いいものを作りたい」という気持ちに突き動かされていると伝わってきた。
自分の描いていたものを作っては壊しを繰り返す。スタッフを叱責するわけではない。「面白くないなあ」とひたすら模索を続ける。スタジオジブリの宮崎駿監督とは対照的で、庵野監督が誰かに怒鳴り散らすイメージはなかったが、いいものに対する強いこだわりは伝わってきた。番組の合間、ドキュメンタリー番組のクルーにすら「オレを撮っても意味がないよ」と撮影の仕方をアドバイスするのもいかにも庵野監督らしくて、答えの見えない完結作に関わる映画のスタッフたちの懸命な姿も印象に残った。
巨匠2人の共通点が明らかに
もうひとつ印象的だったのは、庵野監督が完成した作品を見ないことだった。ドキュメンタリーの終盤では完成披露試写会の様子を映していたが、撮影クルーからの「ご覧にならないですか?」という質問に「見ないよ」と一言つぶやいた庵野監督。「完成したら次の仕事しないと」と言ってのける姿勢には、驚いた。
じつは、ガンダムシリーズの生みの親である富野由悠季監督もそうだった。過去に、富野監督と『機動戦士ガンダムUC』のストーリーを手がけた作家・福井晴敏さんとの鼎談という夢のような仕事を経験したことがあり、富野監督は「仕事上、やむを得ないとき以外、ガンダムは見ていない」と語っていた。
その理由について、富野監督は「当時の自分に負けてしまいそうになるから」と答えてくれたが、庵野監督のドキュメンタリーにより、偉大なシリーズを手がけた巨匠2人に共通点があることを知った。