空気階段もぐらさんに学んだ「おごられ飯」の極意/そいつどいつ市川刺身
“なぜか焼く必要のない肉”より“悩んで決めた磯辺揚げ”
僕「せっかくなんでちょっと飲みますか!」
もぐらさん「そうするか! マスター! 瓶ビールにグラス2つ!」
もぐらさんの男らしい声が店に響く。キンキンに冷えた瓶ビールをグラスに注ぎあい喉に流し込む。もぐらさんがビールを飲むと目を瞑り、しびれながら口から音を出す。
「あぁあぁあぁ……美味い……」。『幸福の黄色いハンカチ』のときの高倉健さん。地下強制労働施設でのカイジ。ビールの名シーンはたくさんあるけど、もぐらさんも負けず劣らずだと思う。こんな美味そうに目の前で飲まれたら後輩の僕も思わず笑みが溢れる。
もぐらさん「よし、何頼むかー!」
もぐらさんと僕はメニュー表にぐっと顔を寄せた。限られた金額でベストパフォーマンスを出すため、全力でメニューを選ぶ。こんなに楽しいことが他にあるだろうか? この食べ物を選ぶという行為は食事において最高のスパイスだと思う。
僕は、もぐらさんを見て、勝手に教わった。大金持ちの社長におごってもらった“なぜか焼く必要のない肉”より、自分のお金で“悩んで決めた磯辺揚げ”が美味しかった時のほうが、体が喜んでると思う。
もぐらさんといると学ぶことばかりだ
僕「あっ! おでんはどうですか?」
もぐらさん「あーいいなぁー! おでん盛り合わせいこう!」
5種類のおでんがテーブルに現れた。
もぐらさん「好きなのいっていいよ!」
僕「じゃあ牛すじいいっすか?」
もぐらさん「じゃあ俺は、こんにゃくいくわ!」
僕「え? もぐらさん、こんにゃく好きなんですか?」
もぐらさん「俺ね。おでんの、こんにゃく好きなんだよ」
僕「意外ですね。僕、おでん選ぶとき、こんにゃく選ばないっすわ!」
もぐらさん「こんにゃくは良いよー。こんにゃくはね、歯で楽しむんだよ」
歯が少ないもぐらさんが何を言ってるんだとツッコミそうになったが、こんにゃくを美味そうにゆっくりと食べるもぐらさんを見てたら、僕も今度こんにゃくを歯で楽しんでみようと思った。
もぐらさんといると学ぶことばかりだ。なんだかとても良い食事だ。もう、あと1本瓶ビールを飲んで最後に炒飯を1つ頼んで2人で分けて食べるぐらいでちょうどいいかもしれない。