コロナ禍で地方百貨店はテナント撤退の嵐。ワクチン接種会場になる動きも
「密になりやすい」サービス内容が仇に…
しかし、「飲食」「カラオケ」「ジム」など「密になりやすい」サービス内容が仇となったとみられ、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い着工の延期を発表。同店は今年中に「デジタルハイブリッド百貨店」をめざした大型リニューアルに着手するとしているが、2021年5月時点はサロン予定地であった5階は大部分が空き床となったままだ。
また、西日本のある地方百貨店でも、新たなテナントの導入が決まったため直営フロアの圧縮を伴うリニューアルをおこなっていたものの、2021年春ごろに予定していた全面開業が延期となっている。
取材によると、目玉として導入される予定だった大型テナント(非アパレル)の1つが直前になって出店をキャンセル。コロナ禍のなか別テナントの誘致も難しいとみられ、この店舗も5月時点で大きな空き床を抱えることとなっている。
全国に広まる「空き床→ワクチン接種会場」の動き
一方で、冒頭で「売場を大きく縮小」した例として挙げた「さいか屋横須賀店」では、大きな動きがあった。空き床となった5階・6階に、5月17日より横須賀市の「新型コロナウイルスワクチン接種会場」が開設されたのだ。
こうした大型商業施設への集団接種会場設置は、大手百貨店「高島屋」の地域子会社が運営する「岡山高島屋」(岡山市)でもおこなわれている。同店が貸し出したのは、普段は物産展などに使われている催事場。
コロナ禍により催事出店も減っていたと考えられる一方、「JR岡山駅の目の前」にある同店は集団接種会場にするには抜群の立地だといえよう。このほかにも北海道北見市のJR北見駅前にある百貨店「パラボ」(日本百貨店協会未加盟、旧きたみ東急百貨店)や、「イオン」や「ダイエー」など全国各地の一部総合スーパーでも、空き床や催事場などをワクチン接種会場として貸し出す動きが起きている。
先述のさいか屋横須賀店では、空き床を接種会場と貸し出すのみならず「ワクチン接種済み証」を提示すれば店内での優待を受けられるサービスも開始されており、早くも接種の帰りに買い物をおこなう高齢者の姿もみられるという。
コロナ禍で生まれた「大きな空き床」を活かしたい百貨店と、「アクセスのよい立地で安く借りられる大きな会場」を探したい地方自治体、両者の思いが1つとなったかたちの「空き床へのワクチン接種会場設置」。コロナ禍で苦境に陥るなか「接種会場の提供」という地域貢献をおこなうことで、このコロナ禍を「集客手段」の1つへと変える動きは全国へと拡大しそうだ。
<取材・文・撮影/若杉優貴(都市商業研究所)>