話せばわかるは幻想。ベストセラーに学ぶ「疲れない人間関係」
『君たちはどう生きるか』(マガジンハウス)や『ざんねんないきもの』(高橋書店)など、子ども向けの本が世代を超えて読まれ、ベストセラーとなっています。
『友だち幻想 人と人の〈つながり〉を考える』(ちくまプリマー新書)も、そんな一冊です。
新しい組織でなんとなくうまくいかない
本書は社会学者の菅野仁さんが、人間関係に初めて悩む中高生に向けて書いたもので、刊行は10年前ですが、テレビや新聞で紹介されたこともあり、昨年に入って売り上げが急伸。
今年7月時点で累計発行部数は25万部を突破するヒットとなっています。
アマゾンの書誌情報を見ると、「しなやかに生きられるようになる処方箋のような本」とあります。「新しい組織でなんか、うまくいかない」「学生時代の友だちとなんだか疎遠になってしまった」といった悩みを抱えるサラリーマンのために、このベストセラーを読んでみました。
中高生向きに書かれたものなので、語り口がとてもやさしく穏やか。ですが、書かれている内容は実はかなりクールです。
人間関係の幻想を見直してみよう
人間関係について語られるいくつかの(耳心地のいい)常識や正論が“幻想”で、それに囚われるから傷ついてしまう。まずは、そんな幻想を改めて見直してみようというのが菅野さんのメッセージでした。
例えば、「百パーセント自分を受け入れてくれる誰かがいるはずだ」幻想について。
本書では「すべての人間関係を考えるときに、基本的な大前提」として、「どんなに気の合う、信頼できる、心を許せる人間でも、やはり自分とは違う価値観や感じ方を持っている、『異質性を持った他者なのである』」と他者を定義。
そのうえで、「『人というものはどうせ他者なのだから、百パーセント自分のことなんか理解してもらえっこない。それが当然なんだ』と思えばずっと楽になる。(略)そこは絶望の終着点なのではなくて、希望の出発点だというぐらい、発想の転換をしていけばいい」とアドバイスします。