習近平の強硬姿勢が鮮明に。中国全人代を理解する4つのポイント
香港情勢と開発研究費が大幅増に
3つ目に、香港情勢だ。2020年に香港国家安全維持法が施行され、民主派の議員やデモ隊参加者らが逮捕されるケースが相次ぎ、香港で活動する外国企業や外国人の不安も増大している。
そのようななか、全人代では香港の選挙制度の欠陥が指摘され、民主派が事実上完全に排除される選挙制度に変更される。選挙制度そのものが変更されるということは、自由や開放性などこれまで香港人が誇ってきた根幹が奪われることであり、人権を重視するアメリカとの亀裂がさらに悪化する大きなトリガーとなるだろう。
最後は、自立自強というスローガンだ。文字通り、他人から自立して強くなるということだが、今回の全人代では、ハイテク・科学技術などの分野で国産を強化し、AIや脳科学、半導体やバイオテクノロジー、宇宙・深海などの開発研究費を向こう5年間にわたって毎年7%以上増額することが決定された。
新型コロナウイルスのワクチン開発のように、技術開発の分野でも米中対立は激化しているが、両国の貿易摩擦も相まって、中国はアメリカなど対立国とのデカップリング(切り離し)を加速化させている。
掲げる目標もより具体的に
他にも多くの方針が決定されたが、ここで挙げた4つに共通するのは、「大国・中国としての道を進む」「外国諸国からの圧力には屈しない」、そして「米国には対抗し続ける」という習政権の意欲だろう。
今回の全人代を一通り目にしても、習政権の姿勢はここ数年の全人代と比べてもより強硬的に、掲げる目標もより具体的になっているように感じる。
最近、中国の国防予算が日本の4倍になる22兆円規模となり、また、米インド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン司令官が3月9日、上院軍事委員会の公聴会で「今後6年以内に中国が台湾に侵攻する可能性がある」と発言したという、驚くような報道も目にする。
平和な日常生活を送っていると安全保障への認識・感覚がどうしても鈍ってしまうが、習政権は軍事侵攻など派手な行動はできるだけ避けつつも、着実にその道を歩んでいる。日本は政治と経済の両面から習政権の行動を注視していく必要があるだろう。
<TEXT/国際政治学者 イエール佐藤>