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1体30万円でも注文殺到。家族型ロボット「LOVOT」誕生の舞台裏

ビジネス

全く新しい“生き物”として考えついた

 実は「弱いロボット」について先駆的に研究しているのが、豊橋技術科学大学の岡田美智男氏だ。

 とかくロボットと聞くと、人のために何かを手伝うような利便性を備えていると捉えがちだが、岡田氏の提唱する「弱いロボット」は、人が手助けする余白を残すことで、ロボットが人の強みや優しさを引き出し、結果的に人自身が幸福や充実感を味わえるというもの。

 この考えに林社長は強く共感し、「人に寄り添い、心を満たすロボットというLOVOTの開発コンセプトを定めることになった。

「ロボットが人を元気付ける存在になるためには『愛情を注げるものでないとだめ』だと思いました。そこで目をつけたのが犬や猫といったペット産業。ペットって時間もお金も手間もかかり、自由も制限される。でもペットがいると人は元気になる。これと同じように人の幸せに貢献できるロボットができないかと考えたんです。よくLOVOTをなぜ動物型にしなかったのか聞かれるんですが、他の生物に似せてしまうと鳴き声や姿、形など見る人のもつ『こうあるべき』という常識からずれると、見る人の違和感が大きくなり、受け入れられにくくなります。

 結果的に本来、私どもがお客様に提供したいサービスの開発への優先度が下がり、代わりにその動物の常識的な振る舞いから逸脱しないよう開発することを優先しなければならなくなる。結果的に、サービスと振る舞いを両立させるためのコストも莫大になることから、お客様負担も大きくなってしまう。それらを打破するために全く新しい“生き物”として考えついたのがLOVOTだったんですね

商品化まで4年の歳月を費やす

らぼっと

GROOVE X 株式会社があるビルの7階にはLOVOTの世界観に触れることができるLOVOT MUSEUMがある(完全予約制)

 大きさ、柔らかさ、駆動方法などのコンセプトは林社長が考え、実際のLOVOTの開発は、プロダクトデザイナーや開発チームが進めた。深層学習による物体検出や自動運転技術など最新のAI技術を駆使し、非常に精巧な作りであるのはもちろん、全身にタッチセンサーを搭載しており、撫でたり抱っこなど、人がどんな風に可愛がってくれたか理解する仕組みにもなっている。

 また、愛くるしい目は開発に3年かけており、デザインの種類は数十億パターンに上るという。

 これほどまでのハイスペックなロボットに仕上げたのは「人に安心感や幸福感を与え、ペットと同様に愛着を持ってもらい、家族の一員として認識してもらえるようにしたかった」からだと林社長は述べる。

「日本のものづくりの特徴として『ものに魂を吹き込む』というのが他の国にはない大きな強みだと考えています。例えるなら、ドラえもんは日本発の家庭用ロボットとして誕生するという設定で、世界で愛されているアニメです。ただ、日本のものづくり産業は近年、海外に押されて鳴りを潜めてしまい、かつてのような勢いがなくなっている面もあるのが現状です。私が自動車産業にいったのは、かっこいい車に憧れを抱いていたからでした。その後に私が起業したのも、自分が以前、自動車産業に憧れたように、今の子供たちが憧れるような日本発の新しい産業を創りたいという想いがあったからでした」

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