なぜ起きる?「どうしても意見が合わない」を乗り越える“哲学的な思考”
お互いの欲望は何かを問うてみる
つまり、私たちはこの世界を、欲望を通して認識・判断して意味づけています。この考え方は、ヘーゲル(1770―1831)やハイデガー(1889―1976)といった近現代の哲学者の思想を継承して、哲学では「欲望相関性」といいます。
<世界は「生けるもの」の「欲望-身体」相関性としてのみ生成するという思想は、世界を、第一義的に、価値と意味のたえず生成変化する連関の総体として捉える。世界は「欲望相関性」としてのみあるという観点は、価値と意味の原理の哲学としてのみ始発する>(同上)
そして実は、この考え方を応用することで、冒頭の意見対立を解消するための鍵が見えてきます。それは「自分や相手の意見には、どのような欲望がもとになって現れているのかを理解することで、意見対立を解消する第三の方針を導きだすことができる」ということです。
哲学的な思考がある上司と部下なら…
先ほどの、上司と部下の会話の例で考えてみましょう。彼らは表面上な意見交換のみしか行っていませんでした。そこでこの原理をもとに、少し部下の会話を変えてみたいと思います。
上司「例のA社様のWEBサイトリニューアルの件だが、リリースまでスケジュールが少しタイトな進捗状況なようだな。サイトリリースの遅延は許されないから、念のため来週予定していた結合テストを今日残業してでも実施をお願いしたいのだがどうだろうか?」
部下「今日は他の業務が詰まっていて厳しいです。結合テストには遅延リスクはそこまでないかと思いますが」
上司「これは遅延が許されないプロジェクトなんだ」
部下「できればその背景を詳しくお聞きしたいです」
上司「いや実はな、過去にこのA社様とは大きな問題があって、今回のプロジェクトも遅延となるとクレームになることが確実なんだ」
部下「承知しました。では私は今日実施する時間が少ししか取れないため他のメンバーにも協力依頼いただくことはできますでしょうか」
上司「分かった、じゃプロジェクトメンバーのYさんにも依頼をしてみようか」
部下「はいよろしくお願いします」
お互いが自身の意見を自覚して表明し合うことで、お互いが納得しえる第三の方針を見つけることができました。