コロナ危機のアメリカ。加速する「人民元国際化」の現実味
米国の混乱をついた中国の人民元国際化
世界におけるアメリカの存在感が低下する一方、コロナの発生源だった中国は早々に経済回復を軌道に乗せた。アメリカの混乱に乗じて、勢力を拡大しているように見えるが――。
「中国は今、『デジタル人民元』のテスト運用や世界一のキャッシュレス決済を支えるアント・グループ(アリババ・グループの子会社)の上海・香港、両株式市場への上場など、人民元の国際化を虎視眈々と狙っています。人民元の国際化を通じて世界中から中国に資金が集まるようになると、それだけで中国の資産は2倍にも3倍にも膨れ上がるので、現在の実力以上のことができるようになります。
たとえば、孫正義氏が率いるソフトバンクグループがたくさんの銀行や投資家から数兆円規模の融資や出資を受けて、事業を急速に拡大させる(=金融の力を借りて経営規模にレバレッジをかける)のと同じことです。要するに、人民元の国際化に成功するということは、会社という比喩で語るなら、大型の資金調達に成功するのと同じことを意味しているのです。
つまり、人民元の国際化がうまく行くと当然、『製造2025(中国政府が2015年5月に発表した製造業発展計画)』や『一帯一路』などの事業計画に対して、よりたくさんの資金を投下することができるようになります。そうすれば、よりいっそう、事業計画の成功確率が高まりますし、中国経済の成長の速度を速めることができるでしょう」
中国創設の国際決済網・CIPSが躍進中
7月の「国家安全法」の制定などに端を発した香港問題を契機に、アメリカは香港に対して金融制裁を発動した。今後、中国本土に対する金融制裁を実施するとも噂されており、ある意味、実際の戦争に踏み込む最後通牒のようにも見える。
「金融制裁は直接に血を流さない反面、効果の高い制裁として、通貨覇権を握る米国だけに許された、最も強力な制裁手段のひとつです。過去にも米国に対抗する北朝鮮・イラン・アフガニスタンなどの国に対して国際送金やドル建て決済の取引制限を設けてきました。
一方で中国は米国の金融制裁に備え、アメリカの影響力の強い国際決済システム・SWIFTに対抗する手段をずっと前から考えてきました。それが2015年に中国が開発し、徐々に世界的に影響力を強めている独自の決済システム・CIPSです。
SWIFTしか存在しない場合、米国が中国に金融制裁を行うと、中国は他国と決済ができなくなってしまい、貿易やサービスが行えなくなります。たとえば、SWIFTは米国の要請に応じて、イランに対して、複数回にわたって取引制限を設けたことがあります。事の是非は別にして、イランからすれば、これはたまったものではありません。他の国との代金の受け渡しが一切できなくなってしまうのであれば、代替手段を探すしかなく、その代替手段としての役割をCIPSが果たしています」