コロナ危機のアメリカ。加速する「人民元国際化」の現実味
11月の開催が間近に迫ってきたアメリカの大統領選挙。しかし、「新型コロナウイルスはただの風邪、悪いのは中国」とうそぶくドナルド・トランプ政権の対応の誤りもあり、アメリカのコロナ感染者数は760万人超、死者数は21万超(※ともに10月12日時点)と世界最悪で、さらに急増中だ。
また、対立候補である民主党ジョー・バイデン候補との得票数が僅差の場合、トランプ大統領が「自分は負けていない」と勝手に宣言し、かつての南北戦争のようにアメリカが混乱状態になるリスクも浮上している。そんなアメリカの混乱をよそに台頭する中国。両国に挟まれた日本はこのままアメリカべったりでいいのだろうか?
トランプ再選なら、金融戦争どころか、本当の戦争に突入してもおかしくない両国の事情について、新書『米中金融戦争 香港情勢と通貨覇権争いの行方』(扶桑社新書)を上梓した金融アナリストの戸田裕大氏に聞いた。
米国の通貨覇権が崩される可能性
アメリカはコロナの蔓延、BLM(ブラック・ライブズ・マター)運動、トランプ大統領の言動などもあって混乱しているように見える。「選挙に勝ちさえすればいい」というトランプ大統領の場当たり的な政策もあり、アメリカや米ドル自体の世界における立ち位置が、相対的に低下してきた。
そのなかでも“通貨覇権の維持”に逆行するトランプ政策について、戸田氏が解説する。
「まず1点目は、米国が大規模な金融緩和を実施していること。米国のバランスシート(資金供給量)は2020年に入って、急激に拡大しています。世界の基軸通貨であるドルがFRB(米連邦準備理事会)によって市場に大量に供給され、4兆ドルから倍増に近い7兆ドルに達する大規模な金融緩和が行われ、投資家も不安を覚えています。モノもお金も結局は同じ仕組み(需要と供給)で価値が変動しますので、ドルが市場に大量にあふれかえると、ドルの価格は低下します」
世界各国から撤退する米軍
ドルの価格が低下するということは、米国に投資している投資家の利回りが低下。ドルの保有割合が減少し、ドルの決済割合も低下していくため、ドルの基軸通貨性が薄まることが想定されるのだ。戸田氏が挙げるトランプ政策の2つ目の問題点は、米国の国家安全保障戦略の変化だ。
「トランプ大統領は2017年の大統領就任以降、アメリカ・ファースト政策を掲げ、世界各国から軍隊を引き上げようと動いています。米国の国家安全保障戦略上、欠かすことのできないインド太平洋地域を除く、世界の紛争地域などにおける軍事的な米国の重要度が低下していることも、米国の権威やドル覇権を脅かす懸念材料といえます。
米軍が世界各国から撤退すれば、それらの地域では反比例的にロシアや中国の影響力が高まっていくことになります。すると、従来、米国との間で行われていた武器や資源などの取引がロシアや中国へと流れていくことになります。当然、通貨決済もルーブル(ロシアの通貨)や人民元の使用割合が上昇していくことが予想されます」