テロとの戦いから撤退を望む米国。「イスラム過激派」復活に懸念
イスラム過激派は2001年から約1.8倍に
イラクとシリアで活動拠点を失ったイスラム国も依然として生き残った戦闘員がテロ活動を続けている。
エジプトのシナイ半島やサヘル地域(マリやブルキナファソ、ニジェールなど)、アフガニスタンやバングラデシュ、そして日本にも近いフィリピンなどでイスラム国を支持する組織が活動しており、懸念を示す指摘は各専門機関から出ている。
例えば、2018年11月、戦略国際問題研究所(CSIS)が発表した報告書によると、ISなどが掲げる暴力的な過激主義に共鳴する戦闘員たちは、今なお中東やアフリカ、南アジア、東南アジアなど各地に多数存在するようだ。
中東諸国を例に挙げると、シリアに4万3650~7万550人、アフガニスタンに2万7000~6万4060人、パキスタンに1万7900~3万9540人ほどとされている。関連するイスラム過激派は世界各地に67組織存在し、2001年から約1.8倍に増えているという。
シリアで復活しつつある「イスラム国」
米国の国防総省は2019年9月、イスラム国(IS)がシリアで復活しつつあるとする報告書を公開した。同年3月、ISの領域支配の崩壊が正式に宣言されたが、その後もIS戦闘員は逃亡し、米軍が撤退する機会をうかがいながら組織の再生を図ろうとする動きがある。
そして、2020年7月には、国連は公表した報告書の中で、インド南部のケララ州やカルナータカ州にはイスラム国の信奉者が依然として一定数存在すると指摘。
また、インド亜大陸のアルカイダが「指導者の殺害に対する報復テロ」を実行する恐れがあると指摘した。彼らはインドやパキスタン、バングラデシュやミャンマー出身者など150人から200人で構成されているといわれ、インドでの攻撃の機会をうかがっているという。
インドに進出する日系企業や駐在する日本人も近年増えるなか、テロは海外邦人にとっても大きな不安材料だ。9.11同時多発テロの記憶が忘れ去られ、米国を筆頭にした国際社会が対テロへの牽制を止めれば、中東やアフリカ、アジア地域ではテロ組織が再び活動を活発化させていく恐れがある。
<TEXT/国際政治学者 イエール佐藤>