28歳女性、就活をやめて被災地で「銭湯と朝ご飯屋」を開いた理由
ローカル暮らしの「お金」事情
都会しか知らなかった境遇は私と同じだが、自分とはまるで違う生き方と価値観を持って、気仙沼に飛び込んだ彼女の考えは尊敬できる。しかし、本当に就職先もままならない状態で生活していけるのか?
「正直お金を稼ぐってどういうことか、ほとんどわからなかった。でも、暮らしてはいけると、すぐに確信できました。ご近所さんやシェアハウスのルームメイトなどが使い切れないくらいお魚や野菜を分けてくれるんです。それに空いている土地もいっぱいあるから、そこでみんなで畑を耕し始めています。ぶっちゃけ、たまねぎとジャガイモさえあれば、人間生きていけると思うんです(笑)」
なぜ、たまねぎとジャガイモなのか。そのチョイスは不明だが、彼女はさらりとそう語る。
「気仙沼に住む前に一度考えたんです。全部そぎ落とせば自分に必要なものは何か?って。お金って本当はいくら必要なのか? 実はよくわかってないことが多い。だから書き出してみたんです。本当にシンプルにしたとき、私、いくらかかるの?って。結局、月8万~9万円の生活費で私は足りたんです。家賃、光熱費、食費で3万円、ケータイ代が1万円、ガソリン代が2万円、年金保険が3万円くらいでした。そこが見通せて、あとは食べ物さえ確保できたら、お金のしがらみを断ち切れると思ったんです」
お金さえあれば裕福な気分になれるが、本来、お金は生きていくためのただのツールのはず。お金を持っていてもどうしようもない災害などの事態になったときに、最後は、我々ではなく、彼女のような人間が生き残るのかもしれない。
「今日より若い日はもう訪れない」
そんな彼女の気仙沼の移住生活ももうすぐ6年を迎える。同年代の友人と会ったときに感じることなど聞いてみた。
「学生時代の友人と久しぶりに会って感じたのが、あんなにめちゃめちゃ就活を頑張って良い会社に入ったのに、みんな顔が死んでいて、楽しそうじゃないんです。それに『理不尽に怒られても我慢できるようになった』ってよく言うのですが、私にそれはできない(笑)。なぜそんなことができるのか聞くと、みんな『お金もらってるから』と言うんです。それって矛盾していますよね」
都会に住む人たちには耳が痛い言葉だ。最後に彼女から同年代の方へ向けたメッセージをもらった。
「人生は1回しかない。だから本当に後悔しないように生きてほしい。せっかく自分の人生、明日どうなるかわからないから、自分がいいなと思った直感に従う方向に、ちょっと無理してでも飛び込んでほしい。自分の人生にとって、今日より若い日はもう訪れないから」
都会ではなかなか出会えない彼女のような生き方を持った人に多く出会えたことで私もどんどんローカルにハマっていったように思う。
<TEXT/森成人>