「地ビールレストランで大失敗」獺祭4代目社長に聞く、逆境を乗り越える力
新型コロナウイルスの影響で、多くの酒蔵が廃業の危機に追い込まれている。日本酒の人気銘柄として知られている純米大吟醸酒「獺祭」を製造する旭酒造も2020年3月〜5月の売上が半減という苦境に立たされている。
先の読めない今だからこそ、企業はどう逆境を乗り越えていけばいいのか。ピンチをチャンスに変えるために心がけることは何か? 旭酒造株式会社の桜井一宏社長に話を聞いた。
手が届く範囲の銘柄を飲むだけだった
2016年9月に先代から経営を引き継いだ桜井氏だが「(長男という立場上)家業をいつかは継ぐと心の内に抱いていたものの、学生時代まではあまり意識していなかった」と話す。
「旭酒造は、山口県岩国市の人里離れた場所に蔵元を構えているのですが、高校までは酒蔵に住んでいたため、蔵元は身近な存在でした。ただ、山口ではなく、東京の大学へ進学したため、上京したタイミングで酒蔵とは疎遠になった。
お酒が飲める年頃になっても、手が届く範囲の銘柄を飲むだけで正直、獺祭の『味やこだわりといった価値』に気づかない自分がいました」
就職先も日本酒業界という斜陽産業ではなく、安定した業界で働くことを第一に考えた桜井氏は、大手メーカー企業で人事関係の仕事に従事した。
家業を継ぐ決意をした「獺祭の味」
しかし、転機は突然訪れる。
「仕事後に入った居酒屋で、獺祭が置かれているのを目にしたので注文したんです。そこで、『他の日本酒よりも美味しい』と感じました。自分で稼いだお金で獺祭を飲んだからこそ、そこに気づくことができたと思っています。その日の衝撃が忘れられず、改めて獺祭について調べ直すと、独自の醸造方法や日本酒づくりへのこだわりなどを知り、家業に貢献したい気持ちが芽生えたのです」
かくして、桜井社長は家業の将来性を見出し、旭酒造で働くに至った。