アジア初の快挙も。米アカデミー作品賞、大混戦を予想する
『アイリッシュマン』☆☆★★★
巨匠マーティン・スコセッシによる、ファン待望のギャング映画だ。ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノなどの大御所俳優が続々出演し、いぶし銀の魅力を放つ大作。ノミネート作品のなかでも風格は群を抜いている。
懸念材料は、昨年受賞を逃した『ROMA/ローマ』と同じ、Netflix制作の配信作品であること。スティーブン・スピルバーグ監督が、配信作品を映画とは認めていないように、アカデミー会員のなかには“反配信派”が少なくないのだ。
とはいえ、Netflixは、いまやハリウッドの既存の映画会社と肩を並べる存在になっている。マーティン・スコセッシ監督が本作を撮り、大御所俳優たちが出演した事実が示している。
作家性の強い企画の実現や潤沢な予算が用意されているNetflixの環境は、映画人にとって魅力的な制作現場になってきていることも事実。Netflix作品が賞レースを総ナメにする日は近い。
『マリッジ・ストーリー』 ☆★★★★
心がすれ違っていく夫婦の姿を描いていくNetflix作品。Netflixは、おそらく作品賞獲得の可能性が高い『アイリッシュマン』の宣伝活動に注力することが予想されるため、本作の作品賞受賞は厳しいのではないかと見られる。
しかし、アダム・ドライバー、スカーレット・ヨハンソン、ローラ・ダーンなどの有名俳優が出演している点が強みとなっており、3人は主演男優、主演女優、助演女優賞にそれぞれノミネート。出演者の賞獲得が期待される。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』☆☆☆★★
ハリウッドの一時代の終焉を、レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピットの2大スターを主演に迎え、叙情的に描いた傑作にして、近々引退することを表明しているクエンティン・タランティーノ監督の映画への愛が爆発した1作。
同様に往年のハリウッドを美しく描いた映画『アーティスト』(2011年)が過去に作品賞を受賞したように、ハリウッドの権威を重視する層からの票が見込める。
とはいえ、タランティーノ映画らしい過激な描写が、票の伸びに影響する可能性もある。性犯罪によってアメリカで訴追され国外逃亡したロマン・ポランスキー監督をモデルにしたキャラクターをそのまま実名で登場させている部分は、ハリウッドで盛り上がりを見せている“MeToo運動”に逆行すると判断されるかもしれない。