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気鋭のイタリア人監督が見た「日本と欧州の不遇なエリート中年」

暮らし

――そのアクションを、決して動くことが得意ではないキャラクターたちがやっているのがいいですね。

シビリア:そこが笑えるんだよね。アクションの内容はジェームズ・ボンドばりのもの(走っている列車の上での攻防戦など)なんだけど、やっているのがちょいとインテリな、なよなよした人たちというのが笑いを誘う。

――彼らがピシっとカッコいい完璧なエリートではないのも好きです。

シビリア:彼らのインテリジェンスというのは、ある狭い、狭い専門性の高いところで発揮されるから、実生活ではむしろ生活不適合者に近いところがあるからね(笑)。

「大学では法学部に行っていたんだ」

いつだってやめられる 10人の怒れる教授たち

『いつだってやめられる 10人の怒れる教授たち』

――さて、映画の研究者たちは、才能を持ちながらくすぶっていますが、現在、日本では、20代後半の高学歴、大学、大学院卒のフリーター、定職についていない層が増えています。

シビリア:僕は36歳だけれど、やっぱり定職がないから、その層のひとりだよ。そうした状況というのは、身をもって知っている。日本も欧州もまったく同じだよ。正しいパーセンテージは分からないけれど、イタリアでもかなり高い割合で、高学歴な若者が定職に就いていない状況にある。

――なかには良い大学に行くことが最終目標であり、社会に出てからのやりたいことが見えないという若者もいます。

シビリア:それは選択肢があるからゆえの悩みだったりもするよね。それから、僕自身、振り返って考えてみると、人生を選択する年代の問題もあると思う。

 大学の学部を選ぶのって18歳くらいのときだよね。当時、僕も何をしたいのか分からなくて、法学部に入学した。いま考えるとやりたいこととは程遠かったことになる。しかも大学に通っている時点では面白かったんだよ。好奇心を刺激してくれてね。

 たしかに生活は楽ではないかもしれないけど、世の中には面白いことって、結構たくさんあるんだ。でもやりたいことというのはまた別。それで迷走しながら人生を過ごしたんだけど、結局は映画をやりたいんだとたどり着いて、幸運にも今こうしている。

 映画の彼らの場合は、幸運にも小さいときから、ある一定のことがものすごく好きで、それを続けているわけだよね。情熱を持てることと、それで生きていけることってまた別。それを18歳で選ばなきゃいけないというのは難しいことだと思うよ。

「道は自分で作り出さなきゃ」

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――好きなこと、自分が人より長けていること、生きていくためにしなければならない仕事。そうしたもののバランスというのは難しいですね。20歳の若者に向けて、監督から何か言葉をいただけたら。

シビリア:ええ!! 僕がアドバイスするの?? 僕なんてまだまだ人から勇気を与えてもらって、アドバイスしてもらう立場なんだよ。うーん。でも、じゃあ、言えるとするなら、他人の忠告なんか耳を貸すなといいたいかな。小さいとき、知らない人から飴をもらっちゃいけないと言われたよね。それと同じで、知らない人からのアドバイスなんて聞くなと言いたいね(笑)。

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