「ひきこもりはメディアに殺された」元当事者が語る、報道の罪
間違った解決方法を広めたメディア
夕方のニュース番組の特集などで、ひきこもりに説教をくらわし、寮に連れ出す行為を繰り返していた女性を覚えているだろうか。彼女の名は、長田百合子(※)。
2000年代前半、ひきこもり問題を解決する救世主として持ち上げられていた。ひきこもることは許されない。そんな社会の価値観を忠実に受け止めて使命感に満ちているようにも見えた。
長田が頻繁に取り上げられたのは、親に子供を殴らせる方法が、テレビ向きだったからだ。親が絶叫し、子供を引きずり回しながら何度も殴る。鈍い音と叫び声は、一度でも見れば脳裏に焼き付いて消えないほどだった。
ひきこもりだからという理由で、こんなことが許されるのか? 強い疑問を持ちながらも、番組からは目が離せなかった。このように、TV番組と引き出し屋は、視聴率と宣伝というお互いの利益で結びつき、何度も同じ光景を流し続けた(編集部注:長田氏は2017年6月に不登校・引きこもり児童に対する指導を終了)。
「支援団体」に殺された事件も
ひきこもりは、暴力を使ってでも強引に引き出して、寮に入れてしまえばいい。そんな素人が思いついた解決策で、2006年、悲劇は起きた。長田の妹で、長田と同じようにひきこもりを寮に連れ出していた杉浦昌子が、男性を監禁し死亡させたのだ(アイ・メンタルスクール寮生死亡事件。杉浦代表は監禁致死罪で懲役3年6ケ月の実刑)。
『引きこもり狩り―アイ・メンタルスクール寮生死亡事件/長田塾裁判』(雲母書房)によれば、アイ・メンタルスクールの被害者(26)は、移送中の車内で手足を拘束されて猿ぐつわをされただけでなく、施設内では体を柱に縛り付けられてオムツをはかされていたとされる。
ひきこもりを強引に寮に連れていくスタイルは、2000年前半には確立され、似たような支援団体が全国で暗躍するようになった。寮に突然入れられたことによって絶望し、自ら命を絶った事例も何例か伝え聞いている。自殺事例は事件化しない。しかし、知られていないだけで、多くの人が施設内で、もしくは施設を出た後に、家族と引き裂かれた場所で、一人で死んでいった。