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「思い通りにいかない…」新社会人の悩みに答える芥川賞受賞作4選

コラム

もっとも面白かった一冊『エーゲ海に捧ぐ』

――世の中に適応できない人は、ハックしろと。面白いですね。読んでいて一番面白かったのはどれですか?

菊池:難しいですけど、『エーゲ海に捧ぐ』ですかね。主人公はニューヨークに単身で住んでいる芸術家で、妻を置いてニューヨークに来ていてアートの仕事をしているんですけど、妻からアトリエに電話が来て、「あなた今浮気しているでしょ」と言われるんです。

 主人公はハッとするんですけど、目の前に現地の浮気相手がいる。目の前の浮気相手には、妻の存在を隠していたので、どっちに対しても、相手がいることを悟られないように平静を装って話さなくてはいけないという物語。しかも、国際電話なのでダラダラと話をしていると通話料金が大変なことになるし、切れば浮気を認めたことになってしまう。そういう葛藤をずっとしているんですよ。小さい話ですけど、スリリングで葛藤の描き方が面白いんですね。

――180作品を全部読んでいて、ペースとしては1日1冊くらいでしたか?

菊池:最初は1日1冊で、後半は2冊、3冊と読んでいましたね。とにかくこなす、荒行を達成するという感じになっていました。短いのから読んでいって、普通に寝ちゃうとそのまま寝そうだったから、目覚ましをセットしたら、床で寝て、起きたらすぐに芥川賞を読むというような生活でした。

 終盤は朝起きたらファミレスに行って、夜までずっといましたね。店員には白い目で見られていたかなと思うんですけど、そういうのも気にしていられなくて。6時くらいに起きてファミレスに行き、0時くらいまでずっといました。明らかに体調悪かったですし、寝返りをうったら目眩がするんです。

直木賞でもう一回やろうとは思えない

菊池良

エーゲ海は、比喩なんですけど、女性器のことなんですよ。そういう比喩も使いつつ、タイトルも高尚な文学作品のように思えますけど、実は違うんだと(笑)

――読む作業と、書く作業はどっちが大変でした?

菊池:集中力を使うから、読むほうですね。人物も間違えちゃいけないから、新しい人物が出てきたら付箋を貼ってました。ストーリーも間違えないように、そこはすごく気をつけていましたね。

 ごはんは食べてはいましたけど、ファミレスの料理でしたし。あとは栄養ドリンクを毎日飲んでいましたから。全種類買って1本ずつ試してたんですけど、どれも効果があったかはわかりません。なので、直木賞でもう一回やろうとは思えないです。ただ、ノーベル文学賞全集は買ってしまったんですけどね……。

<取材・文/岡本尚之 撮影/詠祐真>

【菊池良】
ライター・Web編集者。学生時代に公開したWebサイト「世界一即戦力な男」がヒットし、書籍化、Webドラマ化される。現在の主な仕事はWebメディアの企画、執筆、編集など。著者に『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(神田桂一との共著、宝島社)

編集・文筆業。文学が好きです

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