「全員つまんねえな」人気漫画家が大学生の葛藤を描く理由
忘れられないあの漫画。そこに描かれたサラリーマン像は、我々に何を残してくれたのか。「働き方改革」が問われる今だからこそ、過去のコンテンツに描かれたサラリーマン像をもう一度見つめなおして、何かを学び取りたい。
国友やすゆき、窪之内英策ら「人気サラリーマン漫画」作者に当時の秘話を聞く連載「あのサラリーマン漫画をもう一度」。「ハーバー・ビジネス・オンライン」にて好評連載中の同企画のスピンアウトが、「bizSPA!」でまさかの実現。
話を聞いたのは、非エリート社員など職場で日の目を見ない人たちの姿を描き、“意識低い系の教祖”とも呼ばれる兼業漫画家のサレンダー橋本氏(30)。7月15日には新刊『全員くたばれ!大学生(1)』を発売する。
前回の記事は漫画家としてデビューしてからの葛藤を聞いたが、今回は、その生い立ちや作風がどのようにして確立されていったのかを聞いた。聞き手は『サラリーマン漫画の戦後史』(宝島社新書)の著書として知られる、ライターの真実一郎氏。
「小林賢太郎は天才」と思っていた高校時代
――子供の頃は漫画大好き少年だったんですか?
サレンダー橋本(以下、橋本):もともとは野球少年でしたね。でも高校の頃にお笑いが好きな友達がいて、友達の家でいろんなお笑いのDVDを見まくりました。漫画よりもお笑いが好きでしたね。
爆笑問題と伊集院光のラジオをMDで録音して、通学電車で繰り返し聞いたりしていました。ラーメンズと三谷幸喜が特に好きで、「小林賢太郎は天才だ」と思ってライブとか見に行って。漫画だと、キャラクターの描き方で『猿飛佐助』の杉浦茂先生に影響されましたが、そのくらいですね。
――橋本先生のギャグの感覚は、ギャグ漫画よりもお笑いがルーツだったんですね。
橋本:大学では落語研究会、いわゆる落研に入ってました。落研に入れば面白い人に出会えるかな、と思って。でも落研にいたことは親にも言ってないです(笑)。親に言ったら、絶対親戚の集まりとかで「一席やりなさい」と言われると思ったので。
居場所がなかった大学生時代
――落研では面白い人に出会えました?
橋本:出会えませんでした。でも僕の側にも問題があって。「こいつら全員つまんねえな」というスタンスで、つっぱっちゃってたんですよね。籍は置き続けたのに。いま思うと恥ずかしいし、よくないですよね……。
たまにネタ見せみたいなのがあって、僕は全然やらないんですけど見に行って、面白くないなって思って安心して帰る、ということを繰り返してました。そんな人が馴染めるわけないし、人としてやばいですよね。
――かなり面倒くさい大学生だったんですね……。
橋本:大学に入ってからは全然友達がいなかったので、授業中にずっと小説を読んでましたね。筒井康隆とか安部公房とか、ミステリー小説とかを、1日1冊読んで、読み終わったら帰る、みたいな大学生活でした。漫画雑誌も『ガロ』とか読んで、それを読まないやつを見下して。そんな人に居場所があるわけないですよね……。