働き方改革で長時間労働は何が変わったか、変わっていないか
昨年の3月からスタートした安倍内閣による「働き方改革」。その背景には、日本の労働人口の減少、格差社会の問題、そして電通の過労死事件などありました。この1年間、働く人たちの現場で何が変わったのか、変わっていないのか。年1000人の働く人と面談を行う産業医、武神健之さんが分析します。
4か月連続100時間残業したある人の事例
今回は、最近の過重労働面談(長時間労働者への産業医面談)を通じてご紹介したいと思います。今年1月上旬にクライエントの金融機関で長時間労働者への面接にやって来たのは、入社22年目の45歳、IT部門の管理職男性Aさんでした。
昨年の夏から始まったプロジェクトで忙しくなり、この4か月の残業時間は毎月100時間を超えていました。
「終電を逃す日が続き、週末も休めるのは1日だけとのこと」「充実はしているし、必要性も理解しているが、22年間の中で一番忙しい」
とのことで、さらによく聞いてみると、
「年末頃から布団に入ってもなかなか寝付けないことがあり、年が明けてからはめまいが毎週ある」「集中力の維持が難しいと疲れを自覚し始めた」
とも言っていて、それが産業医面談を受けようと思った理由でした。
気分が落ち込んだり、朝出社が辛かったりすることはないとのことでしたが、お話しする表情に覇気はなく、明らかに疲労が蓄積していました。
プロジェクト自体は4月まで続くとのことでしたが、私はこのままではAさんは、あと3か月もたないと判断しました。
なぜAさんを「3か月もたない」と判断したか?
私は産業医面談を通じて、Aさんの許可をいただき、以下のことを会社側に伝えました。
・長時間労働が続いたことによると思われる疲労の蓄積を認めたこと
・今すぐ医療受診や休職を要するわけではないが、今のままの働き方だと4月まではもたないと思われること
・対策を(必要ならば本人も交えて)部門として立てたほうがよいこと
そして、速やかに残業時間を45時間以下にする方向での検討を始めるようにお願いしました。
このクライエントの翌2月の訪問時は人事部から何も報告はなく、Aさんとの面談もなかったため、私はうまくいっていると希望的観測を持っていました。
しかし、3月の産業医訪問でAさんはまた、面談にきました。
面談にきた理由は、1、2月とも残業時間が80時間を超えたため、心配した人事部に勧められたからとのことでした。
私はAさんに「会社は1月の産業医面談の意見書を見ても何もしてくれなかったのか」と聞きました。