ダイビング×水中ゴミ拾いで、美しい海を未来へ│『Dr.blue』東 真七水が示す環境アプローチ

近年、日本周辺の海洋環境を巡って深刻化しているのが「海洋ゴミ」問題だ。その中でも大きな割合を占めるプラスチックゴミは、やがてマイクロプラスチックへと分解され、海中を漂いながらサンゴ礁や海藻の生育に影響を及ぼすなど、海の生態系を脅かしている。
こうした現状に対し、スキューバダイビングとゴミ拾いを掛け合わせたユニークな活動で向き合っているのが、『Dr.blue』の東 真七水さんだ。その独特なビジネスの発想と、海にかける想い、今後の目標について話を聞いた。
目次
人生を変えた美しい海と出会い
「初めて沖縄の海でダイビングをしたとき、その美しさに一目ぼれしました」
キラキラとした笑顔で当時の衝撃の出会いについて話すのは、沖縄県で水中ゴミ拾い専門ダイビングショップ『Dr.blue』の代表を務める東さんだ。

奈良県生まれ、同志社女子大学を卒業後、化粧品会社に就職し、美容部員として働いていた。その仕事柄、当時はスキューバダイビングはおろか、日焼けもNGという環境に身を置き、それまで海とはあまり縁のない人生を送っていたという。
転機が訪れたのは、友人と沖縄旅行に訪れた際にふと体験したスキューバダイビングだった。海の底まで見通せるような透明度。まるで宙に浮いているかのような感覚。その圧倒的な美しさに一瞬で魅了された。それと同時に、環境問題についての関心も湧いてきたと東さんは話す。
「それまで漠然としていた環境問題が、美しい景色を見てそれが他人ごとではなく自分ごとのような感覚になったんです」
一般的に“ゴミ拾い”と聞くと、自治体やNPOが展開するボランティアというイメージが強い。一方で、東さんはゴミ拾いとスキューバダイビングを掛け合わせ、ビジネスとして運用しているのが特長だ。

「ボランティアとしてゴミ拾いを行うことももちろんできますが、平日フルタイムで仕事をして休日だけ、という活動だけでは、どうしても限界があると気が付きました。より深く継続的に関わっていくためには、ビジネスにしてしまうのがいいのかなと」
周囲からはビジネスモデルとして懐疑的な声も少なくなかったが、東さんは自らの意思を貫いた。
「ニッチなビジネスということもあって、事業の構想を話したときに心配される声もありました。でも、自分が体験して価値を感じていたし、エンタメ性だったり、独自の視点をを掛け合わせたりすることで集客ができると思っていました。あと、もともと頑固な性格なので(笑)、“絶対にやっていける”という自信がありました」

その後、東さんは固い思いを胸に単身で沖縄へIターン。クラウドファンディングを募り、2022年に水中ゴミ拾い専門ダイビングショップ『Dr.blue』を立ち上げた。活動の様子をSNSで発信し続けることで、徐々に広がりを見せ、現在ではゴミ拾い×スキューバダイビングというユニークな体験を求め、各地から参加者が集まるようになった。
“見るだけ”じゃない。Dr.blueのダイビング体験
一般的なファンダイビングは、少人数で海の景色を楽しむ“受動的な体験”が中心だ。一方で、Dr.blueのプログラムは、参加者全員が役割を持ち、協力しながら水中のゴミを回収する“能動的な体験”である点が大きく異なる。

「例えば、サンゴ礁に絡まった漁網を取り除く作業は、一人ではできません。参加者全員で協力して、一つの目標を達成します。ベテランのダイバーの方からも、『通常のファンダイビングでは得られない達成感や結束力がある』と言っていただけることが多いです」

また、Dr.blueでは、水中で回収したゴミを材料にオリジナルのキーホルダーなどを制作するアップサイクル体験や、海洋ゴミ問題について学べるプログラムなど、複数のコースを用意している。
「アップサイクルを取り入れているのは、水中ゴミ拾いの体験を一過性で終わらせないためです。形として残ることで記憶にも残りやすくなりますし、そのキーホルダーを見た人が環境問題に関心を持つきっかけにもなる。そうやって少しずつ輪が広がっていけばいいなと思っています」
Dr.blue × VENTUNO 化粧品で挑む海洋環境問題

東さんの活躍の幅は、ホームの沖縄を起点にさまざまな企業や分野を巻き込みながら広がっている。その中で現在注力しているのが、福岡県で化粧品・健康食品を展開する『VENTUNO(ヴェントゥーノ)』と共同で進めるブルーカーボンコスメの開発だ。
ヴェントゥーノは、海藻由来成分「フコイダン」の研究・商品化を強みとし、藻場の再生などブルーカーボンの取り組みにも力を入れている。なぜ今回、東さんと協業するに至ったのか。同社広報・ブルーカーボン推進担当の中村優希さんはこう語る。
「東さんとは、社内メンバーを通じて紹介を受けました。正直に言うと、普通のダイバーであればここまでお話が進むことはなかったと思います。ただ、“ゴミ拾いダイバー”として活動されている点に強く惹かれました。
海のゴミはやがてマイクロプラスチックとなり、海洋環境だけでなく、ブルーカーボンを担う海藻の生育にも影響を与えます。当社としても環境保全を重視しているからこそ、活動に共感し、お声がけしました」
一方、「ダイビングは、海水や日差しの影響で肌や髪へのダメージが大きいだけでなく、備品も限られ狭い船上では十分なケアをするのが難しいところがあります。人によってはそれが体験のハードルになることもあります。
前職の美容部員という経験も踏まえながら、そういった問題を解決するコスメを開発して、これまで躊躇っていた人も海に連れ出すきっかけになれば」と東さん。

両者が協業で開発しているコスメには、海中でCO₂を吸収・固定するブルーカーボンの担い手である海藻由来の成分が使われている。これらの原料は、自然に依存するだけでなく、各地で養殖・生育に取り組む事業者によって安定的に供給されており、製品化されることで新たな需要が生まれる。
その結果、海藻の生産者に対して継続的な収益機会が生まれ、藻場の維持・再生に取り組むインセンティブにもつながっていく。
つまりこの取り組みは、単なる原料調達にとどまらず、「環境保全」と「産業としての持続性」を両立させる設計になっているのが特徴だ。消費者が商品を購入し、日常的に使用するという行為そのものが、海藻の生育環境を守る活動へと間接的に接続される。
いわば、消費行動がそのまま環境価値の創出に組み込まれている構造といえるだろう。
1人の100歩より、100人の1歩 ゴミ拾いでつなぐ未来
東さんは今後について、「ゴミ拾いはできる限り長く、一生をかけて続けていきたい」と話す。
先述した取り組みに加え、街中でのゴミ拾いをはじめ、BBQやカフェ、さらには「ゴミ拾いをしている人に、悪い人はいないと思うんです」という考えから、街コンといった企画も展開予定。今後も、ゴミ拾いを軸にしたさまざまな取り組みを構想しているという。その根底にあるのが、“1人の100歩より、100人の1歩”というモットーだ。

「実は、海にあるゴミの約8割は、街や山などで捨てられたものが流れ着いたものなんです。一見、関係ないように思える日常生活も、裏を返せばゴミを捨てないこと、拾うことで減らすことができる。そこで重要になるのが、一人ひとりの意識だと思っています。
ゴミ拾いは特別な活動のように思われがちですが、そんなことはなく、誰でもすぐにできること。この先、さまざまな活動を通じて、歯磨きやストレッチのような“日常の習慣”として根付かせていきたいです」
そう目標を語る東さんは、にこやかな笑顔を見せた。
実際に、活動の拠点である沖縄では、現地の人から「以前はゴミだらけだったビーチがきれいになった」と声をかけられる機会も増えたという。そうした変化は、単なる環境改善にとどまらず、「ゴミを捨てない」という意識の広がりにもつながっているのかもしれない。

沖縄の海との出会いをきっかけに、それまでの人生が大きく変わった東さん。地道な活動と発信を積み重ね、懐疑的な声を乗り越えながら、ゴミ拾いをビジネスとして成立させ、共鳴する仲間や企業とともにその輪を広げようとしている。
たとえ一つのゴミを拾っただけでは、大きな変化は生まれないかもしれない。だが、一人ひとりの小さな行動が積み重なれば、やがてそれは確かな変化となる。それは環境のためだけでなく、私たちが生き、働いていく上でも、大切な視点のように思える。
最後に、座右の銘を尋ねると「明日には、明日の風が吹く」と返ってきた。なんとも東さんらしい。この先、東さんが起こす風がどこまで届いていくのか。今後も注目していきたい。
Dr.blue 代表
東 真七水
奈良県出身。大学卒業後、化粧品会社に入社。その後、沖縄県でのスキューバダイビング体験をきっかけに海洋環境問題に関心を持ち、ゴミ拾いをはじめとした活動を開始。単身で沖縄へIターンし、2022年に日本初となる水中ゴミ拾い専門店『Dr.blue』を開業した。現在は企業や自治体と連携し、各地で海洋環境に関する講演を行うほか、ゴミ拾いを軸にアップサイクルやイベントなどを展開。「1人の100歩より、100人の1歩」をモットーに、ゴミ拾いを日常の習慣として広める活動を続けている。
Dr.blue 公式HP:https://www.dr-blue.okinawa/
Instagram:https://www.instagram.com/diver_manami_okinawa/
株式会社VENTUNO(ヴェントゥーノ)
福岡県に本社を置く、化粧品・健康食品の企画・開発・販売を行う企業。海藻由来成分「フコイダン」に関する研究・商品化を強みとし、スキンケアやサプリメントなど幅広い商品を展開している。品質や安全性に配慮した製品づくりを行うとともに、海洋資源の持続的な活用や環境保全に関する取り組みにも力を入れている。
VENTUNO 公式HP:https://ventuno.com/
文:土田洋祐
写真:Dr.blue、VENTUNO、PIXTA