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先進国で唯一!有給休暇がない国【世界の働き方事情・アメリカ】

コラム
先進国で唯一!有給休暇がない国【世界の働き方事情・アメリカ】

海外在住ライターや海外で働いた経験を持つライターが、各国の仕事事情を紹介するシリーズ「世界の働き方事情」。

世界一の経済大国といわれるアメリカ。その中でも全米最大都市ニューヨークの職業事情については、あなたも興味があるのではないでしょうか。米ニューヨークで週休3日の普及度とは。実は日本よりも少ない有給休暇の日数とは。米ニューヨークの職業事情を、現地在住ライターが紹介します。

ミレニアル世代の8割が、金土日休みの週4日勤務を好む

2024年7月22日 ニューヨーク市 ラップトップを開いて仕事をする人 ©️Hideyuki Tatebayashi
2024年7月22日 ニューヨーク市 ラップトップを開いて仕事をする人 ©️ Hideyuki Tatebayashi

18歳から34歳までの1,033人を対象としたCNBC/ジェネレーションラボの世論調査によると、週4日勤務は職場の生産性が高まると81%が回答しており、生産性が低下すると回答したのはわずか19%。ミレニアル世代の8割以上が、週4日勤務を支持していることがわかります。

週4日勤務を提唱する世界最大の組織4 Day Week Globalが6大陸で週4日間のトライアルを実施した結果、従業員の離職率が42%低下、過労による燃え尽き症候群64%減少など、従業員の満足度が高まる好結果を得られました。従業員は家族や友人と過ごす時間が増え、育児と仕事の両立がしやすくなったと感じています。

週4日勤務は100%の生産性目標を達成して、80%の労働時間(40時間→32時間)で、削減なく100%の給与を受け取ります

2024年4月調査会社KPMGが、米大企業100社のCEO(最高経営責任者)に調査したところ、3分の1近く(30%)が、週4日勤務を検討中。2024年3月バーニー・サンダース米上院議員は、給与を減らすことなく週32時間労働を実現する法案を提出しており、アメリカで週4日勤務が標準化するのは時間の問題かもしれません。

ただし、接客業、飲食業、物流、警察、消防、医療関係者など週4日勤務実現が難しい職種もあり、週4日勤務はオフィスワークが中心になりそうです。

米企業の半数以上が採用している「サマーフライデー」とは? 

2024年7月22日 ニューヨーク市 上司と歩くオフィス・ワーカー ©️Hideyuki Tatebayashi
2024年7月22日 ニューヨーク市 上司と歩くオフィス・ワーカー ©️Hideyuki Tatebayashi

「サマーフライデー」とは、5月最終月曜日のメモリアルデーから9月第1月曜日のレイバーデーまでのアメリカで夏季とされる期間に、従業員が金曜日の午後または終日休暇を取る制度。集中力も体力も落ちる夏季は、生産性が上がらないので、金曜日は半休あるいは全休でリフレッシュしようというもの。

広告代理店の幹部たちが、ニューヨーク郊外にある富裕層の高級避暑地ハンプトンで週末を過ごすため、金曜日は仕事を早く切り上げたのが始まりといわれています。米リサーチ会社ガートナーの調査によると、2019年時点でアメリカの企業の55%で導入されているそうです。企業側は、光熱費や管理費のコスト削減、欠勤と有給休暇の削減が利点となります。

先進国で唯一法定有給休暇がなく、民間労働者の15%はまったく有給休暇がない 

欧米は長期の休みが取れるからうらやましい……と日本人は思っているようですが、アメリカは有給休暇が多いのでしょうか?

実はアメリカは先進国の中で唯一、有給休暇を法的に定めていません。有給休暇は雇用主の裁量に委ねられており、経済協力開発機構(OECD)によると、入社1年以降に提供される平均日数は約14日ですが、民間労働者の15%はまったく有給休暇がありません

日本では企業によっては夏季休暇が設定されていますが、筆者の知る限り、ニューヨーク市では聞いたことがありません。

祝日=公休日ではないアメリカ

アメリカ連邦政府で定めた祝日は、11日間あります。政府機関や銀行、郵便局は休業しますが、一般企業や学校はそれぞれの判断により、必ずしも休業ではありません。多くの企業や学校が休業するのは、元日や独立記念日など6つの祝日(下の表の赤字)になります。アメリカでは、雇用主が公休日を遵守する法的義務はありません

企業も学校も公休になる日本は、祝祭日が16日間ありますから、世界では多いほうです。筆者はアメリカに来て、「日本は、祝祭日や連休が多かったな」と思いました。

【アメリカ連邦政府で定めた祝日】2024年8月現在

*赤字は多くの企業や学校が休み

1月1日ニューイヤーズ・デー(元日)
1月第3月曜日マーティン・ルーサー・キング牧師の誕生日
2月第3月曜日プレジデントデー(大統領記念日)
5月最終月曜日メモリアルデー(戦没記念日)
6月19日ジューンティーンス(奴隷制度廃止を記念する日)※2021年より制定
7月4日ジュライフォース(アメリカの独立記念日)
9月第1月曜日レイバーデー(労働者の日)
10月第2月曜日コロンブスデー(コロンブスがアメリカ大陸を発見した記念日)
11月11日ベテランズデー(退役軍人の日)
11月第4木曜日サンクスギビングデー(感謝祭)
12月25日クリスマスの日
the United States government

企業や学校によって公休日になるかが異なる連邦祝日(赤字以外)は、下記の通りです。

1. マーティン・ルーサー・キング牧師の誕生日:1月第3月曜日
非暴力による平和実現を提唱し1964年にノーベル平和賞を受賞した、アフリカ系アメリカ人マーティン・ルーサー・キング牧師の誕生日。人種差別撤廃を生涯に渡って求め続けたが、1968年白人男性により暗殺された。

2. プレジデントデー(大統領記念日):2月第3月曜日
歴代大統領の功績を讃える日。初代ワシントン大統領とリンカーン大統領の誕生日に近い日に設定されている。

3. ジューンティーンス:6月19日
2021年に新しく制定された祝日で、奴隷制度廃止を記念した日。2020年白人警官に殺害されたアフリカ系アメリカ人男性ジョージ・フロイド氏の死をきっかけに、人種差別の是正を求める”Black Lives Matter”運動が起こったことが契機になった。

4. コロンブスデー(コロンブスが大陸を発見した記念日):10月第2月曜日
クリストファー・コロンブスがアメリカ大陸を発見した日。

5. ベテランズデー(退役軍人の日):11月11日
退役軍人を称える、第1次世界大戦の休戦条約を締結した日。

1と3は、アフリカ系アメリカ人が多い企業や学校は休みで、それ以外は通常通り。

2はワシントン大統領誕生日ともいわれ、生涯を通じて奴隷を所有していた初代大統領に賛同するかが分かれます。休業する企業や学校は30%程度。

4は奴隷商人ともいわれる探検家クリストファー・コロンブスが、アメリカ先住民(インディアン)を虐殺、実際には侵略ともいわれ、近年賛同されない傾向にあります(コロンブスの彫像が破壊されるなど)。多くの企業や学校は平日通り。

5は、軍関係以外は関係がなく、多くの企業や学校は平日通り。

異文化が共存するアメリカでは、企業や学校により文化や宗教(キリスト教、ユダヤ教、イスラム教など)が異なるので、実際には祝祭日も異なります。勤務する企業の公休日でなくても、自分が信仰する宗教の祭日だと会社を休む人もいるようです。

有給休暇消化率は半分以下、休暇よりもキャリアを優先するアメリカ人

米国のシンクタンク、ピュー・リサーチ・センターが2023年3月30日に公表した調査によると、有給休暇のある従業員でも有給休暇消化率は48%と、半分以下しか使用していません。

多くのアメリカ人労働者は有給休暇を取得することよりも、現役時代に出来るだけキャリアを積み、多くのお金を稼ぐことを優先事項にしています。アメリカ人が長期休暇を取るのは、大学を卒業した就職前か、リタイア後に多く見られます。

のんびり有給休暇を取っている間に、熾烈なビジネス戦線で自分のポジションを取って代わられる可能性がないとはいえないからです。筆者の知る限りでは、オフィスワーカーの夏休みは1週間程度で、バケーションの行き先は主にアメリカ国内、または南米や北米が多かった気がします。

旅行好きな人は、夏休みが長い学校関係や教職を選択して、キャリアにこだわらず人生を楽しむ場合もあります。

実は日本人よりも働いているアメリカ人

経済協力開発機構(OECD)による2023年の年間労働時間(全就業者)は、アメリカが1,799時間で9位、日本は1,611時間で22位です。日本人は勤勉ですが、世界で突出しているわけではないようです。ちなみに1位は2,207時間のメキシコでした。

最終回はニューヨーカーの副業についてお届けしますので、引き続きご愛読ください。

PHOTO:Hideyuki Tatebayashi
*Do not use images without permission.

【参照】
Why The 4-Day Workweek Is Gaining Momentum: Forbes May 5, 2024年5月5日
A Four-Day Work Week is Gathering Momentum:NewsWeekPublished May 09, 2024 at 9:00 AM EDT
The Impact of Work-Time Transformation:4 Day Week Global
KPMG’s 2024 U.S. CEO Outlook Pulse Survey
米国は有給休暇の少なさで世界2位、先進国で唯一、法定の有給設定なし ジェトロ 2022年12月08日
米国での有給休暇の完全消化率48%、大卒男性の労働時間は減少傾向 2023年04月05日
Which country gets the most paid vacation days?:Resume Io 2022年8月
夏の金曜は働かなくてもいい。アメリカで浸透する「サマーフライデー」は、企業にもメリットがある
「プレミアムフライデー」ならぬ、「サマーフライデー」とは? ハフポスト 2024年07月19日

Federal Holidays An official website of the United States government
米、奴隷解放日が国家の祝日に 6月19日:ロイター2021年6月17日
CELEBRATE! 米国の祝日 アメリカ大使館
OECD Data Explorer • Average annual hours actually worked per worker

[文/青山沙羅]

はじめて訪れた瞬間から、NYに一目惚れ。恋い焦がれた末、幾年月を経て、ついには上陸。旅の重要ポイントは、その土地の安くて美味しいものを食すこと。特技は、早寝早起き早メシ。人生のモットーは、『やられたら、やり返せ』。プロ・フォトグラファーの夫とNY在住。

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