「ブリンバンバンボン」がバズった理由。世界的ヒットの裏側にあるCreepy Nutsの魅力【バズる音楽研究所】
世の中には、さまざまなヒット商品がある。もちろん、その中には音楽もある。ヒット曲という言い方以上に「バズる」という表現の方が最近は適しているのかもしれない。
いずれにせよ、そのヒット曲(バズった曲)はどうしてヒットした(バズった)のか。
マーケティング、時流、ミュージシャンのビジュアルなどいろいろな理由があるだろうが、音楽的な部分だけを純粋に見た時に、どのような秘密が隠されているのか。
そこで今回は、メンタルヘルスに効果的な音声素材を、独自のmeditone®テクノロジーで開発する会社digiart(デジアート)の担当者に、バズりにバズったCreepy Nutsの楽曲〈Bling-Bang-Bang-Born〉の魅力を専門的に解説してもらった。
カラオケなどで歌う時にも、その理屈が分かっていた方が楽しめるはずだ。もしかするとその知識は、ビジネスでの雑談の場でも役立つかもしれない(以下、digiartによる寄稿)。
目次
アンダーグラウンドで無敵の勢いを誇った天才
〈Bling-Bang-Bang-Born〉で大ヒットを記録したCreepy Nuts。そのネーミングは決して上品ではない意味を持つ。
メンバーの2人のうち、ひげ面ミディアムカールヘアのMCの名前はR-指定(大阪府堺市出身)である。
フリースタイルのヒップホップバトルを主戦場に、アンダーグラウンドの世界で無敵の勢いを誇っていた人でもある。
いわば、ポップで大衆受けする道を歩んできたミュージシャンではない。
しかし、テレビアニメの主題歌として彼らがリリースした14作目のシングル〈Bling-Bang-Bang-Born〉は、世に流れるや否や瞬く間にリスナーの心をつかみ、著名なランキングサイトといった表舞台でも首位に躍り出た。
今では、小学生の子どもたちにとっても大好きな曲だ。一体、この音楽に何が隠されているのか? なぜ、ここまでバズるのか? もちろん、いろいろな要因があるだろうが今回は、楽曲の構成だけを単純に見て考えてみる。
たった2つのコードでリスナーのハートをつかんだ
上述したR-指定と、お坊ちゃま風でインテリジェンスを感じさせるDJの松永(新潟県長岡市出身)からなるCreepy Nuts。
彼らは、MCとDJというそれぞれの舞台において、圧倒的な実績を誇ってきた。名だたる大会における優勝経験の持ち主でもある。
コアなファンの世界でも認められる実力者同士だ。その2人が組んだHipHopユニットであると考えると普通、その道のディープなファンが好むサウンドに寄ってしまう傾向が一般にあるように思える。
ところが、この〈Bling-Bang-Bang-Born〉では、ジャジーな(ジャズっぽい)テンションコード(コードの構成音が増えた複雑な響き)や、格好いい分数コード(分母に書かれる単音の上にさらにコードが乗る)など、コンポーザー(作曲家)たちが隠し味で奏でる難解なハーモニーなぞどこ吹く風という感じだ。
彼らは「Am-E」という、男らしいたった2つのコードでリスナーのハートをつかんだ。
この2つのコードは、いわゆる「ドミナント」と「トニック」と呼ばれる。要は、一番シンプルな和音構成だと考えてほしい。圧倒的に指示される楽曲の根底に、究極のシンプルさが存在している点には注目すべきだ。
歌詞自体を言語として使用せずサウンドとして表現する
プラスして、彼らが意識しているTrapの魅力も考えなければならない。
今から4年ほど前、とある番組のインタビューで彼らは「どちらかというとTrapというジャンルを目指している」と胸の内を明かしている。
このTRAPというジャンルは、HipHopからの派生だ。アーティストによって解釈が多少異なる上に、HipHopとTrapとの区別がつかない楽曲もある。
少し専門的に言えば「ラップを構成するワード自体を音の要素にした上で、大昔に廃盤になったリズムマシン(Roland TR-808やTR909)をフィーチャーしたサウンドメイキング」という説明にはなるのだが、この説明で分かる人は音楽業界の人だろう。
それでも、HipHopとの違いをあえて簡単に言うと次のようになる。HipHopの歌詞がある程度のメッセージ性を持つとしたら、Trapの歌詞はそれ自体が音の要素となっている。
歌詞自体を言語として使用せず、サウンドとして表現するため、重厚感とリズミカルな響きがTrapでは強調されるのだ。
デニムと白のTシャツで「パリコレ」を歩いたような曲
では、この〈Bling-Bang-Bang-Born〉はどうだろうか?
どちらかというと歌詞には、社会風刺的な意味を持たせながらも、歌詞自体をサウンドのように扱っている印象がある。
その上で、4小節を1つの単位とした2種類のモチーフを延々と繰り返し、フィルイン(即興的な演奏で変化をつける技法)的なスクラッチノイズや、小節と小節の間を埋める、椅子がきしむようなエフェクト音を入れている。
しかも、シンプルなコード進行に加え、ほぼ5音(ラシドレミ)しか使われていないメロディーを、シャレたフレーズ抜きに、拍頭に連動した縦ノリなグルーブで届けてくれている。
この中毒性を持ったトータルなサウンドが、リスナーの脳みそに作用したのかもしれない。
往々にして、技量や知識をつくる側は見せつけようとしてしまう。逆説的だが、突出した経験と才能を持つ本物の実力者だからこそ、どこ吹く風で、究極的にシンプルな音楽を奏でられるのだ。
例えるなら、超一流モデルが、デニムと白のTシャツだけで「パリコレ」に出演し、ランウェイを歩いた状況と似ているかもしれない。
圧倒的な才能と経験に裏打ちされたユニットによる、いい意味で「ウケを狙った」楽曲が〈Bling-Bang-Bang-Born〉だ。
メジャーな音楽シーンのど真ん中に、一番シンプルな和音構成で届けられた実力者たちの楽曲が、客席から拍手喝さいを受けたとしても何ら不思議な話ではない。
[文/digiart,Inc.]
[参考]
※ トップ100:日本 – Apple Music
※ TikTok Weekly Top 20
※ Creepy Nuts
※ 「曲作りの方法 HIPHOPはどうなる? トンツカタン森本「Creepy Nuts One Man Tour 2019『よふかしのうた』」宣伝大使就任!芸人だから聞けるYouTube限定特別インタビュー」