オリオンビール社長が語る、ストロング缶をやめた理由「黙っていられなかった」
ビールや発泡酒よりも安いにもかかわらず、アルコール度数は9~12%とその2倍近くあり、しかも飲みやすい。安くて酔えることから人気になったストロング系チューハイ。一方では、依存症の専門医から、アルコールの過剰摂取により健康問題へつながる危険性を指摘する声もあがっています。
そんななか、オリオンビールは4月22日、同社が発売するストロング系チューハイ「WATTA STRONG」の業界で初となる販売終了を発表、話題を集めています。WATTA STRONGは2019年5月に発売を開始したオリオンビールの缶チューハイWATTAシリーズのラインナップのひとつで、シリーズ販売額の約4割をしめる人気商品。
オリオンビールはストロング系チューハイの販売終了に踏み切った、その背景には何があるのか。オリオンビール株式会社の早瀬京鋳代表取締役(51歳)に電話で話を聞きました。
なぜストロングを販売終了できたのか
――WATTASTRONG生産終了の背景にはどのような流れがあったのでしょうか。
早瀬京鋳(以下、早瀬):恥ずかしながら2019年、オリオンビールの代表取締役に着任するまで、依存症やストロング系チューハイの問題についてあまり明るくはありませんでした。着任後に、WHOが警鐘を鳴らしていること、ネットなどでストロング系チューハイの問題が指摘されているのを目にするようになりました。
また、沖縄でアルコール依存症の方をサポートしている団体や当事者に現状を伺う機会がありました。そこで 沖縄ではここ数十年でアルコール依存症の方が増えていると伺いました。当事者の方からはストロング系チューハイを睡眠薬みたいに寝る前に飲むのが癖になってしまったという話も伺い、黙っていられなくなり、販売終了を決断したのです。
――でも、WATTASTRONGはWATTAシリーズの中でも人気の商品。販売終了による売り上げの低下への懸念はなかったのでしょうか。
早瀬:WATTAを購入されたお客様へのアンケートでは選んだ理由に味や沖縄の特産品やブランドとコラボレーションしている点を挙げている方が多かった。それに、そもそも一番売れていたのはアルコール度数4%のものです。
ですので、WATTAというチューハイブランドをこれからの展開、お客様に喜んでいただくことを考えた場合、高アルコールは他の要素よりも優先順位が低い。
オリオンらしさは何なのか
早瀬:また、ここ1年間で、ライザップとコラボレーションした「FITTER」をはじめ、健康的にお酒を楽しんでいただくにはどうすればいいのかということを考え続けており、問題意識の共有もできた。もちろん、売上を気にする声は上がったのですが、社内ではこういった流れがありましたので、結果的にSTRONG販売終了の決定は、すんなりと受け入れられました。
――とはいえ、4大メーカー(サントリー、キリン、アサヒ、サッポロ)は依然としてストロング系チューハイの販売を続けています。足並みをそろえるという考えはなかったのでしょうか。
早瀬:オリオンビールは大手メーカーと比較されることもありますし、本社のある沖縄では大きなブランドです。ただ、私はここに着任してから社員に伝えているのですが、我々はベンチャー企業だと考えています。
オリオンらしさとはなんのか、それは4大メーカーに追随することではなく独自の路線を進んでいくこと。こういった考えのもと、いち早く、ストロング系チューハイ販売終了に踏み切ったのです。
沖縄から新たなアルコール文化を
――依存症の専門医などからは、ストロング系チューハイの危険性を指摘する声も上がっています。
早瀬:私個人の考えでいえば、9%のものがすべて依存症の原因になるとは思っておりません。高アルコールを否定するわけでもありません。最終的にお客様が選ぶものですから。
ただ、やはりご自分の体調や相性を考えてアルコールを選んでいただきたい。そういった中で我々としてはアルコール度数以外の価値提案をしていきたい。
また、新型コロナウイルス流行にともない、宅飲みする方も増えています。宅飲みの場合、どうしても飲む量が増える。そこで、我々は“罪悪感なしに”といっておりますが、健康的にアルコールを楽しんでいただくための飲み方を提案していきたい、またお客様と一緒に勉強していきたいとも考えています。
――今後の戦略、どのようなものを考えているのでしょうか。
早瀬:我々オリオンビールの本社がある沖縄は一方でオトーリ(沖縄県宮古島の飲酒の風習、車座になって泡盛を回し飲みする)をはじめとしてお酒の文化が非常に豊かです。
一方では過去には日本一長寿の県といわれた沖縄ですが、その現状は変わってしまっていいます。豊かなお酒の文化、健康問題、この両立をどのように考えていくのか。そしてより健康的なお酒との付き合い方とはなんなのか。そしてそこから生まれる新たなアルコール文化の発信、これができればと考えています。
<TEXT/小林たかし>