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カーナビの原点はホンダ!誕生の裏にあった“自衛隊訓練”【実は日本が世界初】

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カーナビの原点はホンダ!誕生の裏にあった“自衛隊訓練”【実は日本が世界初】

今では、誰もが当たり前に使っている製品が実は日本生まれだったというストーリーを紹介する連載。今回は、車を利用する人であれば誰もがお世話になっているはずの「カーナビ」が日本生まれだったという話を紹介します。

ホンダ・アコードのオプションとして登場

「カーナビ」は、車を運転する人の約8割が使用するという調査もあるくらい身近なカー用品です。自分で車を持っていない人であっても、タクシーに乗るときなどに間接的にお世話になっているのではないでしょうか。

あのカーナビ、当然ながら世界に普及していて、北米、ヨーロッパ、中国では現在、日本以上に巨大な市場が存在するみたいですが、このカー用品は日本生まれだとご存じでしょうか。

具体的には1981年(昭和56年)、本田技研工業株式会社(本社:東京都港区)が発売した〈ホンダ・アコード〉と〈ホンダ・ビガー〉のオプションとして世界で初めて市場に投入された〈ホンダ・エレクトロ・ジャイロケータ〉に起源はさかのぼります。

「カーナビ」(正式にはカーナビゲーションシステム)というと今では、GPS(衛星利用測位システム)を使ったルート案内装置を想像すると思います。しかし、ホンダ・エレクトロ・ジャイロケータは異なる方式で「カーナビ」を実現しました。

そもそも当時はまだ、GPSの軍事利用は一部行われていたものの、商業利用はされていませんでした。

それでも、後に本田技研工業の3代目社長に就任する久米是志さんが、社内で車用電子機器や電子制御システムの開発を推し進める中で、後の「カーナビ」につながる新製品が実現されていったのですね。

戦車からヒントを得た

人類初の「カーナビ」が誕生する前、ドライバーは地図を車内に持ち込み、路肩に車を停めては(時には運転しながら)地図と照らし合わせ、自分がどこを走っているか、目的地までどのように進むべきかを確認しなければいけませんでした。

そのような時代に、本田技研工業のエンジニアたちは、車とドライバーがどこに位置しているのかを把握できる機器の開発に着手したのです。

開発への弾みを付けたきっかけは、本田技研工業のエンジニアが目にした自衛隊の演習でした。

陸上自衛隊の戦車が、縦横無尽に荒野を走りながらもターゲットに向かって正確に射撃を加える様子を見て、戦車に活用されているジャイロスコープを自動車に搭載すればいいと思いついたのですね。

ジャイロスコープとは、何らかの物体(この場合は戦車)の角度や速度、向きを正確に検出する計測器です。

しかし、軍事用のジャイロスコープは200以上のパーツからなる複雑な構造で、大量生産する商用車には向いていませんでした。

当時、飛行機や船にもジャイロスコープは採用されていたそうですが、巨大すぎるため自家用車に搭載できません。

そこで、本田技研工業のエンジニアたちは、8つのパーツからなる小型の車載用ジャイロスコープを独自で開発しました。

さらに、タイヤの回転数に応じた走行距離センサー、車の方向変化に敏感に反応する方向センサーなどの技術を組み合わせ、ダッシュボードに搭載した6インチのブラウン管に、自動車の位置と動きを、光の線と点で表示するシステムをつくります。

そのブラウン管に、半透明の専用地図を重ねれば、地図上のどこを自分が走っているのか、光の線の軌跡と共に運転手は把握できるようになります。

この慣性航法方式の地図と案内システムが、世界初のカーナビとして実用化への道を切り開いたのですね。

IEEE(米国電気電子学会)マイルストーンに認定

カーナビのイメージ
©️PIXTA

もちろん、オプションとして市場に投入された当時のホンダ・エレクトロ・ジャイロケーターにも、さまざまな課題が残されていました。

走行に応じて定期的に地図を自分で変えなければいけなかったり、ジャイロケーターの立ち上がりに5分ほど待たなければいけなかったりといろいろです。

それらのデメリットの存在もあってか、本格的な普及には至りませんでしたが、1990年(平成2年)にパイオニア社から発売された、GPSを活用した市販カーナビの先駆となり、カーナビ大国に日本を押し上げる起点となりました。

歴史的に重要な技術的業績を称えるIEEE(米国電気電子学会)マイルストーンにもホンダ・エレクトロ・ジャイロケーターは2017年(平成29年)に認定されています。

まだ、GPSも民間利用されていない時代に、飛行機や船、戦車に活用されていた技術を車載用に変化させ導入したエンジニアが日本に存在した、それら先人の功績が起点となって現在の「カーナビ」が存在する、そう思いながら「カーナビ」を利用すると、身近なカー用品の見え方がちょっとだけ変わってくるかもしれませんね。

[文/坂本正敬]

[参考]
Automotive Electronics Strategy with a Vision for the Future – HONDA
世界で初めて自動車用ジャイロを実用化した運転補助装置「ホンダ・エレクトロ・ジャイロケータ」を開発 – HONDA
電子情報技術産業協会、カーナビやドラレコの2027年までの世界需要動向 自動車需要の回復にあわせてカーナビ需要も増加の見通し – Car Watch
※ 【カーナビの利用に関する調査】カーナビ機器の設置率は6割強、自動車所有者の8割強。直近1年間にスマホ等のカーナビアプリを利用した人は、自動車所有者の6割強 – MyVoice
※ カーナビゲーションの海外動向と国際標準化の動き – 伊藤肇
First Map-Based Car Navigation System Debuted 14 Years Before GPS Released in 1981, Honda’s Electro Gyrocator is now an IEEE Milestone – IEEE

〈bizSPA!〉元編集長。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉創刊編集長。国内外の媒体に日本語と英語で寄稿し、翻訳家としては訳書もある。技能五輪国際大会における日本代表選手の通訳を直近で務める。東証プライム上場企業の社内報や教育機関の広報誌でも編集長を兼務しており、広報誌の全国大会では受賞経験もあり。

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