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食の安定供給に必要な政府の機動的な対策【やさしいニュースワード解説】

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食の安定供給に必要な政府の機動的な対策【やさしいニュースワード解説】

在京の大手メディアで取材記者歴30年、海外駐在経験もあるジャーナリストが時事ニュースをやさしく解説。今回は、「政府備蓄米の入札」です。

政府が約15万トンの備蓄米を放出

最近のニュースで「政府の備蓄米」という言葉を聞いたことがある人も多いでしょう。 これは文字通り日本政府がコメを政府の責任で備蓄する制度で、食糧法に基づいています。

10年に一度の不作や、通常程度の不作が2年連続した事態にも国産米で対処できる水準として100万トン程度を国が購入し備蓄する仕組みで、2024年6月末現在で91万トンの在庫を確保していました。温度や湿度が厳格に管理された全国約300カ所の低温倉庫で玄米の状態で保管されています。

農水省は この備蓄米を市場に放出するために 2025年3月10日から12日にかけて入札を実施し、14日に結果を発表しました。 対象となったのは約15万トンで、このうち14万1,796トン分が落札されました。 平均落札価格は60kgあたり2万2,217円でした。

政府の狙いはコメの価格上昇の沈静化

政府が備蓄米の放出に踏み切ったのは、主食であるコメの価格が上昇し生活を圧迫しているという切実な声が消費者から上がっていたことが大きな理由です。このため政府が備蓄しているコメを市場に放出することで流通量を増やし、価格上昇を沈静化する効果を狙っています。

コメ価格の上昇は複合的な要因が絡まって起きていますが、 背景には2023年の夏の猛暑でコメの品質が低下し、流通量が減少していたことに加え、品薄を受けて集荷業者がコメを多めに確保しようという動きが広がったこと、さらに転売目的などで通常の流通業者以外にもコメを確保する動きが出たことなどがあるとみられます。

販売価格は前年同期比2倍の水準に

農水省が発表するスーパーでのコメ販売価格の推移を示す統計によりますと、2024年3月時点での5kg当たりの税込価格は約2,000円でしたが、6月ごろから上昇傾向が顕著になり、9月以降は3,000円を超えて推移しています。2025年3月3日~3月9日の週には4,077円をつけ、前年同期比で2,032円上昇し約2倍の水準となり、前週と比べても125円上昇し10週連続で値上がりしています。

農水省は当初、2024年産の新米が出回る昨秋以降にはコメの価格は落ち着くとの見方を示していましたが、実際はその後も右肩上がりの上昇が継続しています。

コメが急に不足する事態は将来も起こりうる

今回放出された備蓄米は3月下旬ごろから店頭に並ぶとみられますが、市場でのコメの販売価格が下落に向かうかどうかは予断を許さない状況です。

歴史を振り返ると、食の洋風化などでコメの需要が減ったことを受けて、主食用米の生産量はほぼ右肩下がりで減少を続けてきました。コメ価格も下落が続いた結果、稲作農家が減り、高齢化も進んでいます。一方で天候不順などの影響でコメが急に足りなくなってしまう事態は将来も起こる可能性があります。

コメの安定供給は国民生活にとって欠かせないものだけに、政府には備蓄米の放出という一時的な対応だけでなく、コメの需給状況を適切に把握し、流通の目詰まりを解消する体制づくりなど広範で機動的な対策が求められています。

在京の大手メディアで取材記者歴30年。海外駐在も経験。

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