確定申告は怖くない!税理士に聞く副業初心者が知っておくべき税金の基礎知識
副業が一般的になりつつある現代社会において、その定義や税金の取り扱いについて正しく理解することは非常に重要です。本記事では、税理士の渡邊亮さんに副業に関する基本的な知識から、税務上の注意点まで詳しく解説していただきました。副業の種類、収入の分類、確定申告の必要性、そして副業を始める際の注意点など、幅広いトピックをカバーしています。副業を考えている方や、すでに始めている方は、ぜひ参考となさってください。
副業における収入の種類
――副業について定義や種類から教えていただければと思います。
渡邊:そうですね。副業に関しては税法上で明確に定義されているわけでありませんが、一般的にはメインのお仕事以外の仕事のことを指します。種類はかなり幅広くて、たとえばスポットワークと呼ばれるいわゆるスキマバイトや、UberEatsのような業務委託型のギグワーク、クラウドソーシングを通じたWeb制作や動画編集、自分で制作した商品や仕入れた商品をECサイトで販売するなど、さまざまなものがありますよ。
――なるほど。副業で得た収入への課税はどのようになっているのでしょうか。
渡邊:大きく分けて3つのパターンがあります。まず、アルバイトなど企業と雇用関係がある場合は給与所得として扱われます。次に、フリーランス的に依頼主と業務委託契約や請負契約を結び成果に応じて収入を得る場合などは雑所得になります。最後に、継続的に独立した事業として収入を得ている場合には事業所得として扱われることとなります。
雑所得と事業所得の区別は、その活動の継続性や事業としての性質、個人収入に占める割合などによって総合的に判断されますが、事業所得として認められる場合には自身で開業届を提出することにより事業所得として申告する必要があります。
――給与所得、雑所得、事業所得の違いについて、もう少し詳しく説明していただけますか。
渡邊:給与所得は会社との雇用契約に基づき働いているため通常のお給料と同様に給与明細が発行されて源泉徴収(税金の前払い)の対象になります。雑所得は副業として一時的に得る収入であるので特に税務署等への申請は必要ありませんが、年間所得が20万円を超える場合には自分で確定申告をする必要があります。
事業所得は事業として税務署に申請を出しているため帳簿の記帳が必要になり、所得の大きさに関わらず確定申告が必要になります。その一方で、事業所得の場合には青色申告特別控除など税金を減額する税制上の優遇措置を受けられる可能性があります。
会社の規定の確認、健康管理、利益相反に注意
――副業を始める際に気をつけるべきことはありますか。
渡邊:主に3点あります。まず、会社の規定を確認することが大切です。最近は多くの企業で副業が認められるようになってきていますが、就業規則をしっかり確認し、必要であれば上司や人事部門に相談しておくといいでしょう。
次に、健康管理です。本業に加えて副業をすることで労働時間が長くなる可能性があるので、自己管理が重要になります。副業を頑張りすぎて本業に支障が出たら元も子もありませんからね。
最後に、情報漏洩の防止です。副業先で得た情報と本業の情報を混同しないよう注意が必要です。また、利益相反にならないよう、本業と競合するような副業は避けるようにしましょう。
――副業の収入に関する確定申告について、基本的なことを教えていただけますか。
渡邊:はい。副業による所得が年間20万円を超える場合、確定申告が必要になるんです。ここで注意が必要なのは、「所得」と「収入」の違いです。所得とは、収入から必要経費を差し引いた金額を指します。ただし、給与所得の場合は経費を差し引くことができないため、基本的には、額面金額の収入がそのまま所得となりますね。
――年収と所得の違いについて、もう少し詳しく説明していただけますか。
渡邊:年収は一般的に、個人が1年間に得た収入の総額を指します。会社員であれば、年明けに会社からもらう源泉徴収票の支払金額がこれにあたります。一方、所得は税法上の概念で、収入から必要経費を差し引いた金額です。つまり、税の世界における利益を意味するワードだと思っていただければ、わかりやすいかもしれません。抑えていただきたいポイントは、税金は年収に対してではなく、所得に対して課されることになる点です。そして年収から所得を計算する過程で、経費や控除といった考え方が出てくるのですが、これについては少々複雑なので今後の記事で詳しく説明します。
源泉徴収と年末調整の仕組み
――源泉徴収と年末調整の仕組みについて教えていただけますか。
渡邊:はい。源泉徴収は、会社がみなさんに給与を支払う際に、所得税を天引きして代わりに国に納付する制度です。年末調整は、1年間の給与総額が確定した時点で、源泉徴収によって納めすぎた税金があれば還付し、不足があれば追加で徴収し納付する仕組みです。これにより、会社員やパートアルバイトの多くは確定申告をする必要がなくなります。ただし、副業がある場合は状況が変わります。本業の給与に対しては年末調整が行われますが、副業の収入については会社は何もしてくれないので自分で確定申告をする必要があります。
――最後に、副業と税金に関して、よくある誤解や注意点はありますか。
渡邊:そうですね。まず、「副業収入がある場合には絶対確定申告が必要」という誤解があります。実際には、先ほど説明した20万円の基準があるため、本業で年末調整されていれば申告不要です。
確定申告をおそれる必要はありません。日本の税制は申告納税制度を採用しており、性善説に基づき納税者が自主的に税額を計算して、申告することが前提となっています。仮に多少の誤りがあっても、故意でない限り厳しく追及されることはありません。むしろ、税務署職員の方々も丁寧に教えてくれたりします。
また、税務のDX化も進んでいるため、最近はスマホ一つで確定申告まで完了できます。私も現在、副業者でも使いやすいような会計アプリのUX企画などに携わっております。みなさんが自己実現をするにあたって、いざという時に確定申告に困らないようサポートできたら、うれしく思います。
[取材協力]
渡邊亮
渡邊亮税理士事務所代表、株式会社タイミー スポットワーク研究所公共政策グループ サービスリーガルエキスパートリーダー。2016年に東京経済大学卒業後税理士試験に合格、同年よりPwC税理士法人に勤務、大手日系企業や外資系企業を中心に税務申告業務及び税務相談業務に従事したのち、M&A部門にて上場企業やファンド等を対象にM&A税務関連業務やクロスボーダー取引等に関する税務アドバイザリー業務を担当。サービスの理念や可能性に共感し2023年8月より株式会社タイミーにジョイン、主に税務を軸にサービス設計や新規事業の企画立案、サービス導入時における顧客のオペレーション対応に関するコンサルティング業務などに従事。併せて新しい働き方における税制面の課題解決に向けた調査研究・情報発信を行っている。2024年2月にはスポットワーカー向けの確定申告セミナーを実施し2,000人を超える応募実績あり。X:@Ryo_da232323