台湾の若者って失業率がすごいらしい。若者を投票へ走らせる3つの内政問題とは
お隣の国、台湾の投票率は高い。直近の年始の総統選挙では投票率は71.86%に達した。
若者も例外ではない。前回(2020年)の総統選挙でも、若者の投票率が7割を超えたそうだ。
なぜ、ここまで若者が投票に行くのか。台湾の若者は、何に問題意識を感じているのか。
今回は、国際安全保障や経済安全保障などを中心に、国際問題に詳しい和田大樹さんに、その背景を教えてもらった(以下、和田大樹さんの寄稿)。
柯文哲に若者は投票した
2024年(令和6年)1月の台湾総統選挙で勝利した民進党の頼清徳(らいせいとく)氏の総統就任式が5月20日に行われた。
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日本的な視点でこのニュースを聞くと、台湾有事や中台関係にどうしても焦点が当たってしまう。
現に「中華民国と中華人民共和国は互いに隷属しない」と頼氏は、台湾を中国の一部と主張する中国側の考えをあらためて否定したため、中国が強く反発している。
その結果、台湾の北部・南部・東部の海域、および中国大陸に間近の台湾離島などで大規模な軍事演習を5月23日に中国軍が開始した。頼政権に対する露骨な圧力である。
しかし、bizSPA!フレッシュ読者と同世代の台湾の若者たちの関心と問題意識は、この中台関係にとどまらない。
もちろん、中台関係が冷え込む中、若者たちの間でも台湾有事を巡る心配の声が広がっている。しかし、若者たちは政治家たちに、対中政策だけではなく、対中政策を含めた「いい台湾」づくりへの姿勢を求めている。
その証拠に、多くの若者は、台湾の独立を求める頼政権に投票しなかった。1月の総統選挙で勝利した頼氏の得票率は40%程度で、第3政党である民衆党の柯文哲(かぶんてつ)氏が26%あまりの得票率を勝ち取った。この支持母体は若者である。
台湾の若者たちは家が買えない
若者が求める「いい台湾」とは何なのか。台湾では長年、民進党と国民党が総統の座を奪い合ってきた。
しかし、台湾人の友人たちに聞くと、民進党と国民党の間の議論は、台湾の独立か中国との統一かばかりで何も新しさがないため、若者たちは飽き飽きしているという。
また、民進党が勝とうが、国民党が勝とうが、何も変わらないという失望感もあるらしい。要は、若い世代からすればどちらも「既存政党」で同じだという。
そこに、新たな可能性を与えた政治集団が民衆党という第3政党だった。独立か統一かという議論にとどまらない、新しい風を吹かせてくれるという期待感から、今回の総統選挙では民衆党への支持が若者から集まった。
では、若者は、新しい風に何を期待し、どのような問題を感じているのか。
台湾には現在、外交だけでなく国内にも大きな課題がある。例えば、住宅価格の高騰が挙げられる。
東京の新築マンションが「億ション」と呼ばれ異常な価格となっているが、台湾でも今日、住宅価格が上昇し続けている。2016年(平成28年)に比べ、2022年(令和4年)はおよそ3割も上昇している。
就職難が若者たちを直撃
一方で若者は、十分な収入もない。15歳から24歳の若年層の失業率が11%と全世代の中でも突出した高さとなっており、就職難という問題が若者たちを直撃している。
要するに、今日の台湾の若者たちは家を買えないのだ。
収入が十分でなければ結婚できず、子どもも育てられない(との考えに至る)。家庭も家も持てないという社会的・経済的な悩みが若者の間で大きな問題となっている。
今回の総統選で政権を勝ち取った、台湾の独立を求める頼政権は、若者たちの不満が一層高まれば、1期4年で終わる可能性もあろう。
言い方を変えれば、対中政策と同時に、若者たちの支持をいかに集められるかという問題に直面している。
若者が選挙に関心を持ち、投票行動に出れば、支持政党の勝利を実現できなくても、その投票率の高さと投票行動で、現政権に間接的に圧力を掛けられる。
日本の若者にも大いに参考になる話のはずだ。
[文・和田大樹]
[参考]
※ Taiwan Votes 2024: What Taiwanese youth really want from this presidential election and beyond – cna