機内Wi-Fiの四半世紀の歴史。北極でつながらない状況に改善の兆しも
連休に入った。長距離移動で飛行機に乗る人も多くなるが、皆さんの飛行機はWi-Fiが通じただろうか。
一昔前までは、インターネットが空の上でつながらなかった。メールやチャットの折り返しを空港に降り立ってから慌ててしていたビジネスパーソンも多かったのではないか。
しかし近年、有料・無料の違いはあるが、フライト中のWi-Fiが普通になってきた。
飛行機が北極圏に差し掛かるとWi-Fiがつながらなくなるなどまだまだ不便な面もあるが国内線などはすでに便利な状況になっている。
そこで今回は、航空ジャーナリストの北島幸司さんに、機内Wi-Fiの歴史とこれからを教えてもらった(以下、北島幸司さんの寄稿)。
約四半世紀前にスタート
機内Wi-Fiサービスは〈Connexion by Boeing〉として2000年(平成12年)4月に世界で初めて発表された。今から約四半世紀前の話だ。
同プログラムは有望ではあったものの、米国同時多発テロが2001年(平成13年)に発生してから、航空業界の経済的現実の重圧と闘わなければならなかった。
日本航空(JAL)、および全日本空輸(ANA)の国内航空会社は2004年(平成16年)から同サービスを提供していた。
しかし、その他の利用事業者が伸び悩み、2006年(平成18年)8月、この先見の明のあるプロジェクトのサービス停止が発表された。
その後、日本の航空機内でWi-Fiサービスが使用できるようになった時期は2012年(平成24年)だ。12年とまだ、歴史の浅いサービスだが今では、顧客満足度を大きく左右している。
そこで、機内でのWi-Fi接続サービスの現状と接続の基礎知識を解説しよう。
ANA国際線でWi-Fiサービスが開始
先ほども少し触れたが、国内の機内Wi-Fiサービスの歴史を振り返ると、2012年(平成24年)6月に全日本空輸(ANA)がWi-Fiサービスを国際線で開始している。
ITおよび通信サービスを世界の航空業界に提供するスイス本社の多国籍企業SITA(国際航空情報通信機構)、ならびにヨーロッパの大手航空機メーカー・エアバス社の共同事業として設立されたオンエア社の〈インターネットオンエア〉のシステムを当初使用していた。
しかし現在は、航空機向け電子機器設備を開発するパナソニックグループの米パナソニックアビオニクス社のシステムに変わっている。
パナソニックアビオニクス社は1979年(昭和54年)に設立された。カリフォルニア州に本社を置く機内エンターテインメント全般を扱う会社だ。
日本航空(JAL)では、2012年(平成24年)7月に〈JAL SKY Wi-Fi〉として国際線でサービスが始まった。最新の機材には、上述の米パナソニックアビオニクス社のシステムに加え、米インテルサット社のシステムも使用されている。
インテルサットは、世界的な商業衛星通信システムの設立を目的に設立された世界商業衛星通信暫定機構を前身とする。
その後、再編を繰り返した一部が、バージニア州マクリーンに本社を置く通信業務の事業会社となった。
史上初の極地サービスに成功
ただ、航空機のWi-Fiは、高速移動体での通信となる。当然、安定性が課題になる。
昨今では、問題なく通信サービスを享受できる技術が整ったが、衛星電波の受信状況が北極のような極地では悪くなる。
ヨーロッパに日本から向かう際に、ウクライナ戦争の影響でロシア上空を直行便が飛ばなくなった。
日本とヨーロッパを結ぶ国際線は、日本の北東にあるベーリング海峡を通過してから北極圏を飛ぶ。
その14時間ほどのフライト中、極北を飛ぶ区間、言い換えると全行程の3分の1近い4時間ほどでつながりにくい状況が発生している。
南極はどうだろうか。南極に関しての航空業界は未知の世界と言っていい。南半球の国は、北半球に比べて少ないため航空路線が発達していない。
その意味で南極も、Wi-Fiがつながりにくいと考えられる。衛星は飛んでおらず、Wi-Fiの基地局にならないからだ。
ただ、こうした南北極地を除く地球上のほぼ全域をWi-Fiサービスはカバーできるまでになってきた。
北極問題も急速に改善の方向へ進みつつある。
直近で言えば、2024年(令和6年)2月に、Wi-FiサービスをJALへ提供する米インテルサット社が、北極でつながりにくい電波状況を改善しようと、マルチオービットアンテナを使用し、史上初の極地サービスを成功させた。
今後は、新たな衛星の進出で、米スペースX社が提供する宇宙インターネットサービス〈スターリンク〉などが台頭してくるだろう。そのうち、宇宙空間でもWi-Fi電波が飛ぶようになる。
技術の進歩が実に楽しみだ。今後、機内Wi-Fiの接続がどのように進化していくのか、世界を舞台に戦うビジネスパーソンは、これまでの歴史を踏まえつつ未来にも注目してほしい。
[文・写真/北島幸司]
[参考]
※ 国際電気通信衛星機構(ITSO) – 外務省
※ 5.インテルサットの動向 – 内閣府