新規商品開発のイノベーションを生む「アート思考」とは?専門家が磨き方も解説
近年、「アート思考」という思考法がビジネスの分野で注目を集めている。今年7月には人材・広告企業マイナビが、アート思考をテーマにしたプラットフォーム「MYNAVI ARTSQUARE(マイナビアートスクエア)」を銀座・歌舞伎座タワー22Fにオープンさせるなど、ポピュラーになりつつある。そもそもアート思考とは? ビジネスや普段の仕事に役立てるシーンや磨き方を専門家に聞いた。
アート思考とは?
アート思考とは、一般的に「アーティストが作品を創造するときと同じプロセスを用いた思考法」と定義される。それには深い意味があるようだ。
法人向けウォールアートの提供やアート思考ワークショップなどを行うWASABIの代表 平山美聡氏は、アート思考について次のように定義しているという。
「アート思考は、自分自身で自由に発想する思考法だととらえています。子どもの頃から誰もが持っている、好き・嫌いという感性を大事にする考え方です。イノベーションが生まれるほか、それ以上に自身のウェルビーイングのためにも欠かせないと個人的には思います。アート思考は主観に基づいて判断を積み重ねるため自己理解につながり、成功体験が起これば深い自己承認にもつながります。結果的に自分の直感や判断に無自覚に自信が持て、自己肯定感を生むことができるのではないかと考えています」(平山氏)
また、マインドマップを用いたアイデア創出方法をアート思考などを用いて実施し、講師として指導も行うコンタ慎治氏は、次のように話す。
「アート思考は、内発的動機から今までにない新しい価値を創造し、社会をより良くしようとする思考法だと考えます。インプット量を増やし、他人と違う自分軸を持ち、自分らしい創造力を発揮することが必要です。むしろその他人との“違い”こそがアート思考です。不確実で一つの正解がないVUCA時代には必須の考え方であるため、これからビジネスの中心を担っていく20代のビジネスマンには、特に身につけていただきたいスキルです」(コンタ氏)
アート思考がビジネスで役立てられるシーン
アート思考はどのようなシーンでビジネスに役立てられるのだろうか。両者に尋ねたところ、共通しているのは「イノベーションを生み出したいシーン」だという。またチームビルディングや業務改善にも役立てられるそうだ。
●イノベーションを生み出したいシーン
「アート思考は、急進的なイノベーションを生み出したい場合に有効です。通常、新規商品開発などの際には顧客の課題解決をベースに考えることが多いと思いますが、それでは競合他社と横並びになり価格競争に陥るケースもあります。一方、アート思考は個人や会社ができること、作りたいこと起点で話が進むので、顧客が考えてすらいないイノベーションを生み出す可能性があります」(平山氏)
「アート思考は、新規事業開発に役立てられます。どんな商品・サービスが売れるかまったく予測ができない時代にアート思考を使えば、今までにないまったく新しいイノベーションを起こす商品・サービスを新たに創出することができると私は考えます」(コンタ氏)
●チームビルディングを行いたいシーン
「アート思考は、個人の好き・嫌いなど感性や美意識に樹立するため、アート思考を用いた研修は普段、仕事上では見られない人の側面を見ることができます。そのため、深い相互理解からチームビルディングにつながります」(平山氏)
●業務改善を行いたいシーン
「仕事上の課題を、自分らしい創造力を発揮して業務改善していくシーンでもアート思考は役立つと私は考えます。一人でもそしてチームでも、それぞれの創造力を発揮して出したアイデアは多様性に満ちており、その多様性が結合することで新しい第3の案が創造され、業務改善にも役立てることができると思います」(コンタ氏)
アート思考を磨くおすすめの方法
アート思考は、個人としても一人のビジネスマンとしても磨くことは価値があるといえそうだ。どんな風に磨くことができるのだろうか。両者にアイデアをもらった。
平山氏は、自分の主観を意識して、研ぎ澄ますことが重要だという。
「主観を自覚し、些細な自分の『好き・嫌い』を認識してください。毎日忙しく仕事をしていると、自分の好き・嫌いはおろそかになり、正しい・正しくないという視点にとらわれがちです。日々、『こちらのほうが、なんか好きだな』と直感的に選ぶときがあるはずです。そんなときは、後で『なぜ自分はこちらを選んだのだろう?』と選択の結果を俯瞰して見て、論理的に解釈してみましょう。直感と論理を反復運動することで、主観はどんどん研ぎ澄まされたものになっていきます。ぜひ、日々の中にほんの少しの余白を持ち、その余白で自分がどういう行動や思考をするか観察してあげてください」(平山氏)
コンタ氏は、次の2つの方法を挙げる。
1.自分の感性に響いたものをメモに取り、引き出しを増やす
「日々の生活の中で、自分がときめいたもの、感性に響いたものや直感的に『いいな』と思ったことをメモに取ることです。メモ帳や手帳に書くほか、TwitterにつぶやいてもOK。大事なのは習慣化することです。そうすることで、自分軸が磨かれ、引き出しが増えていきます。いざアート思考で考えるときに より広い思考ができるようになるでしょう」(コンタ氏)
2.マインドマップを学び、活用する
「マインドマップを学んで活用することで、自分軸に気づくことができると考えます。実際、新規事業開発の現場でもアイデアの発想法として活用されています。マインドマップとは、脳の思考プロセスを見える化し図式で表現するツールです。マインドマップは、脳に自然なツールなのでより自分の思考を広げ、アイデアを引き出してくれることもあるため、創造力を発揮するのに優れたツールでもあると私は考えます」(コンタ氏)
アート思考を磨くには、自分の普段の思考や感性をより強く意識することが重要であるようだ。
あえて、アート思考をテーマにした場に身を置いてみることも、自身の思考や感性を意識してアート思考を伸ばす一つの方法ではないだろうか。冒頭で触れたマイナビアートスクエアは、アーティスト、学生、ビジネスパーソン、企業、教育機関が出会い、つながりを後押しする施設だ。
アート思考を入り口に、キャリア形成に役立つナレッジやスキルを習得できるプログラムの提供や、現代アートを起点として多岐に渡る文化が内包されたテーマを持つ作品の展示などを予定しているという。積極的に足を運び、交流や参加をしてみるのもいいのではないだろうか。
<取材・文/一ノ瀬聡子>
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【取材協力】
アート事業WASABI代表/株式会社NOMAL副社長
慶應義塾大学環境情報学部卒業後、株式会社資生堂入社。営業・広報を歴任する傍ら、趣味のアーティスト活動を実施。アートの現状に課題感を持つ。その後2016年から株式会社NOMALへ参画。「WASABI」事業を立ち上げ、アートの通販をスタート。さらに2018年法人向けウォールアート事業をスタートし、年間10社以上にアート思考ワークショップとウォールアートを提供している。
https://wasabi-artdesign.com/
青山学院大学経済学部卒。会社員の傍ら2019年、トニー・ブザン公認マインドマップインストラクター資格を取得。マインドマップを広め、多様性のある新しいアイデアが生まれる瞬間に立ち会いたいと、2021年「マインドマップ・エバンジェリスト」を名乗り、活動開始。「ストアカ」で講座を公開中。
https://www.street-academy.com/steachers/231232
MYNAVI ARTSQUARE
https://artsquare.mynavi.jp/
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