「いきなりタメ口」「今どきこんな不遜な若者いない」それでも人気脚本家が彼らを応援する理由とは?
ある日突然「俺は映画を撮る!」と言い出して……
渡辺:蓮くんは容姿にも恵まれていて、学歴も立派なのに、やたらとコンプレックスが強くて、口では偉そうなことを言いながらも、「俺はまだ何者でもない」と打ちひしがれてるようなところもあったんです。「何者かにならなくちゃいけない」という焦燥感を抱えてこちらにぶち当たってくる感じだったので、「求めているものを与えれば、きっと自分なりに道を見出して突き進むんだろうな」と思っていたら、ある日突然「俺は映画を撮る!」と言い出して、脚本のようなものを送りつけてきた。とはいえ、物作りというものは相当難しいことであり、生半可なものじゃない。「遊びにつきあう暇はない!」と突き返したらへこたれずに何度も直してきて、ようやくなんとか形になったものの、コロナ禍になってしまい……
――お互いの持続化給付金をつぎ込み、クラウドファンディングも立ち上げて、渡辺さんが脚本、須藤さんが監督・主演を務める『逆光』という映画が生まれたわけですね。
渡辺:はい。そこから配給・宣伝も自主でやることになり、劇場公開の定石である東京から地方の映画館に広げる形ではなく、ロケ地となった広島から公開スタートして東京に凱旋し、そして現在に至る……という感じです。
――つまりは、前途有望な若者である須藤さんをベテラン脚本家の渡辺さんが応援している形である、と?
渡辺:応援というより、植物を育てている感覚に近いかもしれないですね。人って、面白いものを見つけたら「きっとこれは何かのタネに違いない」と思って、土に埋めて水をやってみたくなるじゃないですか。そしたらビックリするような芽が出てきたから、「どんな花が咲くんだろう?」と、せっせと水をやり続けているような状況で(笑)。あくまで自分の楽しみのためにやっているんです。あとは、「だいぶ先細りになりつつある映像業界にとって、必要なタネでもあるんだろうな」という予感もしているので。この植物を育てることによって、映像業界全体に何かしらのインパクトを与えられたら、という気持ちもあるんですけどね。
「人は自分の目で見た場所しか目指せない」
――異なる世代の交流という意味では、渡辺さんが脚本を手掛けられたドラマ「エルピス」も想起させられました。
渡辺:「エルピス」で言うと、蓮くんはまさに拓朗のような存在なんです。「この業界に風穴をあけるヒーローのような若者に出てきて欲しい」と、私はここ10年くらいずっと思い続けてきたんですが、なかなか現れなくて……。「もしかすると彼なら何かできるんじゃないか?」と思えたのが、蓮くんだったという感じですね。
須藤:僕は別に映画業界を変えるためにやっているわけではなくて、自分が心から面白いと思えることを開拓するスピリットを同世代の人たちに手渡していきたいだけなんです。僕らと一緒にいることで、まだ開花していない可能性が開く人がいる。「人は自分の目で見た場所しか目指せない」というのが僕の自論だから、まずはあやさんのようにすでに第一線で活躍している人たちの力を借りて高い視座まで上って、いま自分がいる位置との差と世界の広さを知っておくことが何より大事だと考えているんです。