転職・失業を経て人気ブックライターに、今も印象に残る言葉「リクルート時代の上司が」
苦手な仕事を選んでラッキーだった
――アパレルメーカーのワールドから、リクルート・グループのコピーライター職に転職し、現在はフリーライターとして文章を書くことをお仕事にされていますが、以前から書くことが好きだったのでしょうか?
上阪:いえ、もともとは、文章を書くことは大嫌いでした。正直今も好きじゃないです(笑)。コピーライター時代も苦しかった。でも、自分が知ったことを人に教えることは好きだったんですよね。実は、この仕事の本質はそこにあると思っているんです。書くことではない。読者にとって面白い内容をピックアップして伝えること。そこに魅力を感じています。
僕は、読者が面白いと思ってくれることを書きたいだけです。自分に書きたいことがあるわけではないし、文章についても全く興味がないんです。こういうライターは珍しいと思いますけど。好きなことを仕事にするのは必ずしもプラスに働かない、と僕は思っています。もし文章を書くことが得意だったら、自然とできちゃうから、努力しなかったかもしれない。この仕事の本質にも気づけなかったかもしれない。
例えば、もともと文才がある人の中には、取材をちゃんとしない人もいるみたいなんですよ(笑)。そうすると、文章はうまいけど中身が……なんてことにもなりかねない。実際、相手のことをちゃんと取材せず、自分が考えることを書いてしまうブックライターがいて、結果的に著者が「こんなこと言っていない」と、トラブルになったという話を聞いたことがあります。
その点、僕は文章が苦手だったので、相手の話を聞くことにこだわったし、決して天狗にならず謙虚でいられたという点で、むしろ苦手な仕事を選んでラッキーだったと思っています。
「分かったようで分からない言葉は使うな」
――上阪さんはフリーランスとして活動されていますが、会社員時代に上司にかけられた「言葉」で、印象に残ったものはありますか?
上阪:最初の会社はアパレルメーカーだったんですけど、1年半勤めて辞めました。配属されたブランドは平均身長180cmくらいの体育会系の人が多く、学生時代にバンド三昧で、ユルユルだった僕にはツラかったのです(笑)。
その後、もともと広告の世界に行きたかったので、リクルート・グループに転職するんですけど、今度は自由度が高すぎて、ギャップがすごかったですね。印象に残っているのは、コピーライターとして入社した1日目に、文章の書き方について上司から言われた「分かったようで分からない言葉は使うな」ですね。
その時はピンとこなかったんですけど、後になって「形容詞を使わないってことだ!」と気づきました。例えば「いい会社」というのは、明確な定義がない言葉なんですよね。「大きい」「小さい」「楽しい」といった形容詞も同じ。これではちっとも伝わる文章にはならないんです。「いい会社」って何なのか、よくわからないからです。だから、具体的な「中身」が必要なんです。