「異常」な結果は当然?“人間ドックとがん検診”の知られざるデメリット
新型コロナウイルス感染症のパンデミック以来、連日テレビに出てワクチンの必要性を力説している「専門家」たちが注目を集めてきた。しかし、「そもそも“専門家”とは誰かということ自体、実はかなりあいまいである」と述べるのは、テレビでもおなじみの生物学者池田清彦氏(@IkedaKiyohiko)だ。
科学哲学、環境問題、生き方論など、幅広い分野に関する著書を持つ池田氏が、「専門家だからこそ言えないようなこと」を、その分野の文献や客観的なデータを踏まえながら論じた著書『専門家の大罪-ウソの情報が蔓延する日本の病巣』より、「人間ドックとがん検診」についての章を紹介する(以下、同書より抜粋)。
「異常がないほうが異常」な人間ドック
高血圧に限らず、何かの異常を自覚させるのに役に立つのが「健康診断」や「人間ドック」である。そして、どれだけ「役に立つ」のかは、人間ドックですべて「異常なし」と言われた人の割合がよく物語っている。2015年のそれはなんとわずか5.6%である。しかも正確に言うと、この数字には「軽度異常」まで含まれている。
そうなると純然たる「異常なし」の人はさらに少ないわけだから、もはや「異常がないほうが異常」だと言ってよい。
ここまで「異常」な人ばかりになる理由としてあげられるのは、受診者の高齢化と検査項目の増加そして厳格化である。老化というハンディを抱えた高齢者にさまざまな検査を行えば、こういう結果になるのは当然なので、「自覚のない患者の掘り起こし」は簡単に実現するだろう。人間ドックほどではないにせよ、健診にも似たような効果があるのは間違いない。
「異常」な結果が出るのは当然?
異常だと言っても、それはあくまで他人のデータと比較した際の「統計的なはずれ値」である。健康か病気かの絶対的な基準なんてものは実は存在せず、その方面の専門家たち(学会など)が、「この辺から先は病気ってことにしよう」と恣意的に決めているだけだ。高血圧の基準がそうであるように、基準をちょこっといじれば、治療対象となる患者の数を増やすことも減らすことも可能なのである。
放置する人も一定数はいるだろうけど、「異常」と言われるとだいたいの人は不安になって、自ら医者に足を運ぶだろう。そういう人はおそらく真面目な人なので、その後も医者の言うことを聞いて、「異常」を正常にすべく、努力するに違いない。