“奴隷同然”はホント?「マグロ漁船」の現実を発信する“船主協会TikTok”の想い
多様性が求められる現代。働き方や職種も広がる中、漁業従事者が年々減少傾向にあるそうだ。しかし、ただ手をこまねくだけでなく、なかには工夫を凝らして若者にアピールを行う団体も存在する。TikTokやYouTubeなどを通して、実用的な発信を続けているのが「宮城県北部船主協会」だ。
今の漁師は船上でどんな生活を送っているのか。この取り組みを始めたきっかけと併せて協会の事務局長である吉田鶴男氏に話を聞いてみた。
誤ったイメージを持つ人も多い
「遠洋まぐろはえ縄漁船」のリアルな姿とともに、求人の投稿も行うのが同協会のTikTokアカウント「気仙沼の漁師リクルーター」 (@craneman70)だ。こうした活動をはじめた背景について、吉田氏は次のように話す。
「平成の中頃から求人への応募が減り、平成16年から5年間はゼロでした。これまでの方法では人が集まらないと思い、最初はTwitterで募集をはじめたんです。第一次産業はどこも、人員募集には苦労していると思います。ただ遠洋漁業は、借金のカタで強制的にマグロ漁船に乗せられて、まるで奴隷同然に働かされるという都市伝説の影響もあります」
吉田氏自身、漫画『闇金ウシジマくん』の世界のようなイメージを持つ人に何度も会っているそうだ。実際に、TikTokにも「使えない奴は最終的に海に落とされるって本当ですか?」「毎回30名ほどで出港するが、帰りは一桁になる」など、事実とは違ったコメントも届いている。
女性向けのテイストにしてみたら…
「もちろんそんなことは事実無根です。昭和30年代ごろの話に尾ひれがついて、悪い印象が広まったんですよね。当時は、日本中で労働者の権利意識が低く、今のコンプライアンスに照らせばNGになることがどの業界にもありました。漁業は、陸から長期間離れるため、第三者が仕事や暮らしの様子を垣間見ることができず、悪いイメージが大きくなったんだと思います。また、全国的にみると、遠洋まぐろ漁船に乗っていた人の話を聞くことがまずないため、そもそも、そのような乗組員は存在するのかという疑問を持つようになったことも、誤解されるようになった要因かと思います」
そうしたイメージを払拭すべく、クリーンな現状を発信する吉田氏。しかも、そのテイストは、募集対象である男性向けではなく女性向けにしているそうで、コメント欄にも若い女性からの声が多数寄せられている。どんな狙いがあるのか。
「女性が振り向く産業は伸びていく印象があるので、まずは女性に対して発信をしていました。漁師って、本当にカッコいいんですよ。その姿をそのまま発信したら『カッコいい!』『嫁になりたい!』なんてコメントが多く来るようになりました」
そして、女性からのコメントが増えるに従って、男性からの応募も増えたという。現在では、船に乗せられる新人の割合をコントロールするために、毎年15名ほどを採用しているそう。