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15時間労働でも小遣いゼロ。嫁ぎ先の“ブラック農家”での地獄の日々

コラム

「おかしい」と気づいた近所の奥さんの一言

農家

 おまけに、ここまで身を粉にして働いても給料は1円も風香さんに支払われず、完全なタダ働きだったそうです

農家としての経理担当は私でも、家のお金を実際に管理していたのは夫とお義母さん。月の小遣いなどはなかったため、必要な時はその都度申告していました。ただ、田舎で息抜きするような場所も時間もなかったですし、独身時代は毎月通っていた美容院すら行くことができませんでした」

 心身ともに疲弊しきって判断能力が麻痺し、「農家の妻はこんなもの」と思い込んでいたとか。ところが、買い物に訪れたスーパーで顔見知りの奥さんに声をかけられ、それが錯覚だったことに気づかされます。

「地域の会合で知り合った近所の農家に嫁いだ方で、歳も近かったので立ち話をする仲になっていました。あるときに『大丈夫? かなり疲れてるようにみえるけど……』って言われ、つい家のことをグチっちゃったんです。そしたら『そこまで働かせるなんてありない!』って驚かれちゃって。それで、おかしいってわかったんです」

離婚率は低め。ブラック農家はレアケース?

 その日の深夜、スマホで調べてみると、自身の境遇が農家の妻としてありえないほど劣悪なことが発覚。夫に改善してもらうように訴えますが暖簾に腕押し。それどこから「よその農家の妻はもっと働いてる」と反論され、逆に責められたといいます。

「何度も訴えましたが聞き入れてもらえず、義両親からも“わがままな嫁”扱いされて風当たりが一層厳しくなりました。それでも私は環境改善を主張したので、いら立った夫から『出てけ!』と言われ、それで実家に戻って弁護士を挟んで離婚しました

 待遇を変えてくれないなら別れる覚悟はあったので、未練どころかすっきりしました。一緒に暮らした2年間は時間の無駄になりましたが、子供に恵まれなかったのが今となってはよかったのかもしれません。子供がいたら別れる決断は簡単に下せませんでしたから」

 ちなみに総務省『人口動態統計』によると、やや古いデータですが2015年度に離婚した農林漁業従事者の夫婦は2643組。職業別の離婚率は2.0%と全体の離婚率(3.1%)を下回り、サービス業従事者(9.8%)の5分の1とむしろ離婚が少ない職業のようです。彼女の嫁ぎ先のようなブラック農家はごく一部だと思いますが、一緒に暮らしてみないと実態がわからないのが難しいところです。

<TEXT/トシタカマサ イラスト/カツオ(@TAMATAMA_GOLDEN)>

―特集[本当にあったブラック職場]―

ビジネスや旅行、サブカルなど幅広いジャンルを扱うフリーライター。リサーチャーとしても活動しており、大好物は一般男女のスカッと話やトンデモエピソード。4年前から東京と地方の二拠点生活を満喫中

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