なぜ介護や保育は低賃金なのか?“必要不可欠”なのに冷遇される理由
コロナ禍を契機に“エッセンシャルワーカー”という言葉を耳にする機会が増えた。私たちの生活に必要不可欠な労働者を指し、医療・福祉・運送・小売・飲食など、その業界は多岐に渡る。ただ、日常生活を支えてくれるエッセンシャルワーカーではあるが、低賃金だけでなく、不安定な雇用状況にある人は多い。
なぜ必要不可欠であるにもかかわらず、エッセンシャルワーカーは冷遇されているのか。『最低賃金1500円がつくる仕事と暮らし』(大月書店)の著者で静岡県立大学准教授の中澤秀一氏に話を聞いた。
エッセンシャルワーカーの待遇が悪い理由
中澤氏は「海外でもエッセンシャルワーカーの労働条件は低く、外国人労働者に頼っている国も少なくありません」とエッセンシャルワーカーが冷遇されているのは世界共通の課題だと話す。
「日本のエッセンシャルワーカーの待遇が悪い理由としては、“介護業界や保育業界、飲食業などは女性の就業率が高いから”ということが挙げられます。男女間賃金格差はどこの国でも存在しますが、日本は男女間の格差が特に大きく、それがエッセンシャルワーカーの待遇に反映されているのです。
また、女性が主に担っている仕事の賃金が低い要因として、『女性は主な稼ぎ手ではない』『男性に扶養されている』といった古い価値観が今なお根強いことにあります。つまり、“男性稼ぎ主モデル”のもとに低賃金構造が作られているのです」
「送料無料」のしわ寄せは…
G7では最下位、先進国のなかでも最低レベルの日本のジェンダーギャップ指数が示す通り、待遇面での男女差がエッセンシャルワーカーの冷遇につながっているようだ。とはいえ、肉体労働系の“男性エッセンシャルワーカー”も少なくないが、これには「例えば、運送業は男性が多い業界ですが、長時間・過重労働しなければ十分な給与を得られません」と解説。
「そういった業界では、収益が上がらない構造になっています。よく通販などで送料無料というのを見かけますが、誰が送料を負担しているのでしょうか。労働者にしわ寄せがいっていると考えられます。消費者が安い価格で商品・サービスを購入すると、労働者は低賃金にならざるをえないのです」
過剰なサービスを求めることがエッセンシャルワーカーの業務量を増やし、長時間労働しなければ満足な給与を得られない状況を作っている。私たちが普段何気なく利用しているサービスは、エッセンシャルワーカーの冷遇の上に成り立っているのかもしれない。