「治療法のない難病」に侵された68歳男性。世界で初めての治療法とは
ALSの症状緩和に世界で初めて成功
患者さんには、急速な呼吸機能の低下が見られました。2020年6月に66.5%だった肺活量(基準値80%以上)が46.1%に。また痙縮(けいしゅく)による全身の硬直が見られ、症状が急速に進行していることを確認しました。そのため、患者さんおよびご家族へのインフォームド・コンセントのもと、培養上清による治療を開始しました。
2021年1月から、培養上清の点鼻投与を、9月から点滴治療および10月には呼吸器の装着を行なった結果、呼吸機能の低下などの症状の進行が停止し、点滴治療開始後1週間で、四肢と頸部に痙縮の緩和と関節可動域の拡大が見られ、その後も呼吸機能(動脈血酸素飽和度=SpO2)の改善が続いています。
2022年1月現在、呼吸機能の改善(室内気、SpO2が95%以上)と痙縮の改善、自動的・他動的可動域の拡大が続いています。今後は針(しん)筋電図、筋電図(EMG)などの検査を行い神経再生の経過観察をする予定です。
今後は対象を拡大し、完治を目指す
進行性の痙縮は、運動神経の炎症と変性によって生じるALSに特徴的な症状です。発症後は進行を遅らせることはできても、進行を停止・改善に成功した例は過去に見られません。特に本例のようなALS重症度が4~5の高齢者の方の予後は悲観的と考えられてきました。
しかし、今回の臨床結果のように、急速に悪化しつつある呼吸機能を安定化改善させ、自動的・他動的な運動可動域の向上が見られたことは、培養上清の抗炎症および神経再生効果が高いことを意味しています。
こうしたALSのような治療法のない難治性の運動障害を伴う神経変異疾患に対して、培養上清の投与は有望な治療法になり得ることを明確に示しており、今後は発症後早期の例や壮年者に対象を拡大し、完治を目指したいと考えています。
<TEXT/上田実 医学博士>