ベーシックインカムで救われるか?コロナとAI失業の“W危機”で困窮者が増加
中間所得層が低所得層に転落
ITに雇用を奪われた人は中間所得層に多い。IT化による失業者の残酷な現状を「失業しても高所得層の頭脳労働に移ることができれば良いのですが、雇用数が限られているうえに、高いスキルを求められるため簡単な話ではない」と、井上氏は話す。
「結局はITに仕事を奪われた人の多くが低所得層、つまりは肉体労働に移動します。清掃業や介護職、運送業といった肉体労働はITに代替されにくく、継続的に失業することはありません。
しかし、IT化が本格化した2000年以降、アメリカの実質GDPは右肩上がりなのに、実質世帯収入の“中央値”は伸び悩みを見せています。要するに中間所得層の多くが低所得層に移り、所得格差が深刻化しました」
労働者を使い続けるほうがコスパが良い日本
日本の状況を聞くと、「日本は“IT後進国”と言われているように、アメリカのような現象はあまり起きていません」と、幸か不幸かIT化による失業の傷口はまだ浅いようではある。
「日本は終身雇用が前提なうえ、簡単に解雇もできない。そのため、莫大なコストが必要なIT化を無理に進めず、従来通り、雇った労働者を使い続けるほうがコスパが良い場合が少なくないのです。他にも、日本の経営者が比較的高齢であることも、IT化の導入が遅れて失業を深刻化させなかった要因と言えます」
ITに対する疎さ、日本特有の働かせ方が日本の雇用を守られていたが、「今後はITやAIに仕事を奪われることは避けられないでしょう」とやはり逃れることはできないと口にする。
「アメリカ同様、事務職でも雇用の減少が見られます。例えば、みずほ銀行が2023年度末までに、事務員の約3割にあたる3000人程度を資産運用の相談を受け持つ営業に再配置する計画を発表しました。金融のIT化と呼ばれる“フィンテック”が普及し、今後の金融業界の雇用はますます変化を見せれば、その流れは他の業界にも派生していくでしょう。そうなると肉体労働に移る人が増加するかもしれません」