オリパラで話題の“手話通訳者”が明かす「海外の固有名詞に苦労した」開閉会式の裏側
コロナ禍でのろう者の生活は
――コロナが広がり、不便になったことはありますか?
野口:私は本業で手話を教えていますが、対面ではなくオンラインで教えています。映像は平面的なので、空間を使う手話とオンラインは相性が悪いですね。奥行きを使った手話は教えにくくなりました。
――マスクの影響も感じられますか?
野口:手話は顔や口元も文法のひとつになっているので、マスクをしているとそれを伝えることができないんです。手話を教えていても、学生がマスクをしていると、彼らが口元の文法をきちんと表出できているかが確認できません。
優秀な手話通訳士を一人でも多く育てたい
――「手話」といっても顔も使って表現するのですね。
野口:透明マスクやフェイスシールドも使われていたんですが、それでも制限される部分があります。例えば「父」という手話は指を頬につける動きがあるんですが、フェイスシールドがあるとそれができません。手話を今学んでいる学生たちが、指と頬を離れた状態で覚えてしまったということもありました。
――野口さんが将来的にやりたいことはありますか?
野口:一般的には、ろう者はたくさんの聞こえる人の中に少数のろう者がいるという環境がほとんどです。ですから、ろう者の母語である手話が中心のコミュニケーションになる環境がつくれたらいいという気持ちが強くあります。今の職場でよく感じることなんですが、手話で仕事するというのはろう者にとってどれだけ幸せなことか。なので、手話ができる人、優秀な手話通訳士を一人でも多く育てたいです。
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周囲にろう者がいなければ気がつくことができないことも、今回のオリパラで話題になったことにより、知る機会が得られた。今後、この輪がさらに広がり、どんな人でも暮らしやすい社会に向かうことを願ってやまない。
<取材・文/Mr.tsubaking>