韓国・中国人がアカデミー賞で躍進。日本の映画界が負けている深刻理由
戦前の文化政策が落とす暗い影
また、こうした「文化政策」のインセンティブを日本では誰が担っているのか、はっきりしないことも気になる。映画に対する投資でも失敗をしていた経済産業省が統括する海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)が5年にわたって純損失200億円を計上していたのは記憶に新しいが、なぜこのようなことが起きてしまうのか。
それは映画、アニメ等の「文化」の予算配分を担う担当省庁が、産業を統括する経済産業省と文化を統括する「文化庁」に分かれていることも大きいのではないか。芸術文化の助成制度は文化庁が所管しているが、日本のクリエイターと日々接しており実情に詳しいのは文化庁と見るべきであり、政策の立案実行は文化庁に舵取りをさせるべきではなかったのか。
確かに、文化庁は文部科学省の下部組織であり、現場では経済産業「省」の意向が強くされてしまう傾向にあるのかもしれない。だとしたら、文化庁を文化省に格上げするなどの工夫も必要であろう。
日本の文化政策が遅れてしまっている原因のひとつとして、戦前は文化政策が、大政翼賛会などのナショナリズムとの深い関係があったこともあるという。国が「文化国家」の体裁を取り、文化に積極的に関与することはナチスドイツの政策と同じようなニュアンスを持つのだと。
よって、文化が「産業」ではなく、もっぱら「教育」の文脈で捉えられてきた結果が現在の姿なのだが、時代は21世紀である。日本の成長戦略のために、民間の自助努力に任せきりにするのではなく、業界が健全に発展していくためにどのようなことが必要なのか、実りある政策の実行が要求されていると言えよう。
新人発掘が身を結んだ近年の作品
今回の『ノマドランド』『ミナリ』のアカデミー賞受賞においては、製作会社のスタンスも特筆すべきことであろう。アカデミー賞では存在感の薄いアジア人かつほぼ無名の彼らがなぜノミネートされ、受賞に至ったののか。
まず、今回の受賞作品である『ノマドランド』のサーチライト・ピクチャーズも『ミナリ』のA24もハリウッドの大作とは一線を画した低予算で質の高い作品でファンを獲得してきたが、両社が優れているのは新人の発掘に力を入れていることである。
サーチライト・ピクチャーズの『リトル・ミス・サンシャイン』のジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ファリス監督は、インディペンデント映画を対象としたサンダンス映画祭で発掘され、今回アカデミー賞を受賞したクロエ・ジャオ監督は、同作で女優として主演を務めながら、製作者として映画化の権利を獲得していたフランシス・マクド―マンド自身がトロント映画祭で同氏の前作『ザ・ライダー』を観て感動し、声を掛けたという。一方、A24も『ミッドサマー』のアリ・アスター監督、『WAVES/ウェイブス』のトレイ・エドワード・シュルツ監督など新人を発掘している。
また、昨年『パラサイト 半地下の家族』を製作した韓国のCJグループもいち早くポン・ジュノ監督の才能を見出し、オスカー受賞にまで導いている。すでに実績のある監督に頼らず、こうした新人を育てる努力がオスカー受賞につながっていることは見逃せない事実であろう。