コロナ禍で退職した29歳看護師 「無責任」と言われても貫いた“理由”
不安に駆られて退職を決意する
しかも、結婚を前提としたお付き合いで、互いに実家には挨拶済み。きちんとした形での結納はしていませんでしたが、事実上の婚約状態にあったそうです。
「ただの恋人同士ならもしかすると仕事を選んでいたかもしれません。でも、結婚してもいいかなと思ったのは、今の彼が初めてでした。そんなに結婚願望が強いほうではなかったですけど、もう私も20代後半です。別れてしまったら次にいつチャンスが訪れるかもわからなかったし、不安に駆られてしまったのもあります。それで病院を辞めることを考えるようになりました」
とはいえ、コロナ禍で医療機関もひっ迫。勤務先は地域の中核医療機関のひとつでコロナ感染者の受け入れも行っていました。既存スタッフの中からコロナ担当に人員を割くことになり、病院内のすべての医療従事者が疲労困憊の状態だったそうです。
「仕事への責任感もありましたが、コロナ禍が長引くなかで、このまま働いていたら彼と会えない状況が今後もずっと続くと思ってしまったんです。そうなれば、いくら結婚を約束していてもうまくいかなくなる可能性は高い。それで6月中旬ごろ、7月いっぱいで辞めさせてほしいと伝えました」
辞表を出したら上司たちから「無責任」と…
その際、彼氏や結婚のことも打ち明けましたが、対応した婦長からは「いったん預からせて」と保留扱いにされてしまいます。そして、しばらくの間、婦長や副婦長、主任などから退職を思い留まるように代わる代わる説得を受けます。ですが、辞意を撤回することはありませんでした。
「遠回しな言い方でしたけど、この時期に辞めようとするなんて無責任だと責められました。特に主任なんか『それで別れるような人は本当の相手じゃない』『そのうちいい人が見つかる』なんて根拠のないことばかり言ってきました。
もし『病院のことは気にしなくていいから!』と言ってくれる人がいたら逆に思い留まったかもしれません。それでも理由はどうであれ、途中で現場を離れたのは事実ですし、罪悪感は今でもやっぱり消えないです」
現在は式こそ挙げていませんが彼の希望で入籍は済ませ、一緒に暮らしているとのこと。恐らくあのとき辞めていなければ少なくとも2人は今も夫婦にはなっていなかったでしょう。彼女は結果として仕事を辞めましたが、どちらの道を選んだにせよコロナ禍で難しい判断を迫られた人は、きっとたくさんいるはずです。
<取材・文/トシタカマサ イラスト/野田せいぞ(@nodanosei)>