北朝鮮で格差が拡大。金正恩氏が「軍事パレード演説中に涙を流した」理由
コロナや自然災害で格差が拡大
また、最近では台風8号、9号、10号が立て続けに北朝鮮を直撃し、特に穀倉地帯として知られる黄海南北道や江原道などは壊滅的な被害を受け、北朝鮮の食糧事情は厳しさを極めている。
韓国政府によると、今回被害を受けた農地面積は約3万9000ヘクタールで、2016年の台風被害の4倍に上り、住宅の倒壊や鉄道・道路の寸断も深刻だという。金正恩氏が涙を見せた背景にはこういった事情も影響しているとみられるが、やはり国民からの反発やクーデターを恐れている可能性がある。
これは以前から言われていることであるが、北朝鮮では首都・平壌市民と地方・田舎の人々の間では、別の国かのような格差があり、新型コロナウイルスや自然災害によってさらに格差が開いているともいわれる。
我々はテレビで、金正恩氏を尊敬したり拍手を送ったりする市民の姿を目にする。しかし、地方や田舎では「平壌で何が起きているか分からない」「毎日どうやって食糧を得るかで精一杯だ」「金正恩氏は何もやってくれないじゃないか」などといった中央への不満が強く漂っており、テレビでの様子とは真反対の状況だという。
国内情勢がさらに悪化する懸念も…
5月下旬、韓国の脱北者団体が、北朝鮮との国境付近から「金正恩は偽善者だ」「長男である金正男氏こそが本物の血統一族であり、金正恩はそうではない」など同氏を非難する内容のビラを気球に乗せて飛ばした。このことに北朝鮮が激怒し、その後、南北友好の象徴だった連絡事務所を爆破した出来事があった。
北朝鮮側にはそういったビラを地方や田舎の人々が見て“反金正恩感情”を高め、軍内部にもそういった感情が芽生えはじめ、いつかは金政権に危機が到来するとの恐怖心があるのではないだろうか。
今後の米大統領選挙や米中対立の行方も影響するが、北朝鮮が新型コロナウイルスや自然災害など非人為的なものによって大きなパンチを受けていることは間違いなく、現在の情勢がこのまま続くと、北朝鮮の国内情勢はさらに悪化することが予想される。
<TEXT/国際政治学者 イエール佐藤>