『100日後に死ぬワニ』きくちゆうきが語る、“唯一の後悔”と次回作
主人公である一匹のワニの何げない日常を綴り、最後に死ぬまでを描いたツイッター4コマ漫画『100日後に死ぬワニ』。2019年の12月12日に始まった連載は、最後の日が近づくにつれ大反響を呼び、タイトルの通り100日目の2020年3月20日に最終話を迎えた。
だが、その直後に書籍化と映画化が発表され、SNSをはじめ多くのメディアも巻き込んでその賛否を巡る議論が巻き起こったのは記憶に新しい。なぜあそこまで一匹のワニに日本中の人々が熱狂したのか?
その裏には作者・きくちゆうき氏自身が歩んできた独特の生き方と哲学があった。『100日後に死ぬワニ』が完結してから約100日たった今、作者と改めて一連の狂騒を振り返ってみた。
反響は想定を超えていても作品のなかの軸は守っていた
――きくちさんとワニの100日を振り返りたいのですが、最初はどういうきっかけで始めたんですか?
きくちゆうき(以下、きくち):去年の秋ごろに個展が終わって、そろそろ何かやろうと考えていたんです。「100日後に死ぬ○○」というアイデアは前からありました。あまり自分が描いてなかった爬虫類を描こうと思い、トカゲかワニのどちらか迷って、最終的にワニにしました。スタートの日が12月12日になったのはたまたまです。
――最初のころは漫画以外にきくちさん自身の発言も投稿していましたが、途中からは漫画だけになりました。
きくち:初めはリプライも返してましたが、回を重ねるにつれ、見てくれる人がどんどん増えていって、これはもっと真剣にやろうと(笑)。自分が発言をしないほうが没入感を持って読んでくれるだろうと思い、途中からやめました。数日たってから出版社さんから書籍化の話が来るようになったんです。
――連載終了と同時に書籍化が発表されたことも、反感を持たれた理由のひとつになっていたように思えます。
きくち:自分の描いた作品が本になることはクリエイターなら全員が嬉しいと思うし、それは素直に受けるべきだと思うんです。そもそもそれを目指して活動してたわけだし。急に「やっぱカネかよ」って言われても、そりゃ受けるでしょう、と(笑)。確かに反響は想定を超えてましたが、それでも自分がブレちゃいけない部分はあったし、作品のなかの軸は守っていたつもりです。
最終日と次の日の炎上だけは誰も読めなかった
――軸とは具体的にはどんな?
きくち:「終わり」があることを読者に意識させることです。やることはもう決まっていたし、とにかく作品を終わらせることだけに集中して、自分が何か言うとしても、すべては終わってからと考えてました。
――ご自身では、どうしてここまでヒットしたと思いますか?
きくち:たぶんですけど、ツイッターで現実の100日と一緒に進んでいく作品がこれまでなかったのかなって。ワニの前に『何かを摑んでないとどこかに飛んで行っちゃうアザラシ』を100日間、ツイッターで連載してましたが、その感触もあって、次も「100日」で何かやろうと思っていたんです。
――最終話が近づき「ワニを殺さないで」という声が出たり、ラスト予想が盛んになるなど、周囲のボルテージがグングン上がりましたね。
きくち:いろんな予想がたくさんありましたけど、それよりは一個超えたものを描きたいとは思ってました。でも、終わり方はもともと考えていて、担当編集さんには「こういう終わり方にしたい」と初めのうちから伝えてました。おかげさまで全編、僕のやりたいようにやらせていただきましたし、横槍は一切入ってません。ただ、最終日と次の日の炎上だけは誰も読めませんでしたね。